カタバミの愛し方(※)

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■※ご注意ください※■ このページは 最初から最後まで無理矢理な行為の回想です 「なんで?どうして?」 辛そうな声。表情はやっぱりぼんやりとしか分からない。 「え?」 「あんな幸せそうにしてるのなんか、初めて見た」 「いつ?何の話?」 「ずっとひとりぼっちでいないと駄目じゃないか。同じなのにあいつだけ、なんで。許せない」 私の事を話していると思っていた。 『ひとりぼっち』 でもその単語を聞いた瞬間察した。 少し前までそれに当てはまっていた人がいる。葵が『あいつ』と呼ぶ大嫌いな人物が、矛先なんだ…! 「もしかして、私が好きでこんなことしてるんじゃなくて…紅大を、傷つけたくて、なの?!」 「違う!多香ちゃんが好きだから!」 苛立ちながら自分に言い聞かせるように。 否定しながら明らかに肯定の荒い声。 私の行動が、決まった。 「分かった。好きだからなんだね?じゃあ早く終わらせてよ。力じゃ勝てないし。変わりにこういう事したって絶対誰にも話さないで。私も死ぬまで話さない。ふたりの…秘密にして!」 紅大にも、木田さんにも知られてはいけない。 だったら。自身に見てすぐ分かる傷を残さないよう受け入れて、何事も無かった様に今まで通り過ごす。彼をこんな…こんな私を使った方法で傷つけたくない。 結局スマホには手が届かない。 もう、涙も出ないと思っていた。 今からされる事を思うと体が粉々になりそうなくらい辛い。決意したはずの自分が自分を傷つけて、涙が流れた。 もう全て受け入れよう。 抵抗をやめた。こめかみが片方だけ濡れていく。 暗い室内。どれくらい時間が経ったんだろう。 スマホを取ろうと捻った上半身は、膝を持って引き倒された事で再び同じ体制に戻っていた。背中と後頭部を床に打ち付けた衝撃に叫び声を上げる事も出来ず組みしかれ両手は頭上。優しさも好意も何もない触られ方を静かに受け入れていた。 暴れなくなった私を伺うような空気の後胸元に痛みが走る。 「いっ……?!」 それは一際肌に刺さる、かなりの強さ。 噛まれた。 「跡っ、跡だけは残すのやめて?お願い…お願いっ!」 知らないと、ぱっと見たぐらいでは分からないぐらいの薄さの手首の傷。 そんな傷ひとつ、ずっとずっと気にしてくれる人がいる。『俺が気にしすぎなんだ』って、困ったみたいに笑ってくれる恋人がいる。ふとしたタイミングで、傷が消えるおまじないをかけるように撫でてくれる大切な人がいる。 これ以上傷つけたくない。 自分の体じゃなくて、彼を。 その為に受け入れようとした。なのに。 お願いは虚しく無視されそれから痛みは体全体に散る。何に対しても、気力が底をついた。 足へ伸びてきた手が膝から上に肌を滑るからスカートが捲れあがり、内腿の柔らかい場所に触れる。 そこは紅い跡をつけてくれる場所。 他の人からは絶対見えるはずのない、彼らしい場所。大切に、優しく触れてくれる場所。 経験だけが多くて初めてのことが多かった彼と、私が、ふたりで。一緒に積み重ねてきた大切な想いが体中に刻まれているのに一瞬で何もかも汚されていく。 すり、と下着をずらされ中心に指がかかる。 彼に沢山愛されることを覚えたそこは今、自分でも分かるくらい硬く閉じている。 ほんと、どこもかしこも凄まじい愛情表現の思い出でいっぱいの体。 かり、と爪で何度か引っ掛かれる現実が辛い。 引っ掛かれ続ける。強い力で。 「いっ……!い、たい!」 「どうせあいつとの時はすぐ濡れるんでしょ?開いてよ、ここ。じゃないと…もっと痛くなるよ?そのままするから」 「ひ、ぃっ?!やっ!」 ベルトの音。所謂本番行為に繋がる…最後の音に、浅い呼吸が更に浅くなった。 目を閉じる。彼だと思おう。 大丈夫。さっさと受け入れて、何事もなかったように帰って、多分噛まれた跡が沢山残ってしまっているから肌が綺麗になるまでは会わない。元の肌になってから何も知らない彼と仲直りして、普通に会って、笑って、キスして…誕生日までの、ふたりみたいに。 出来る?私、分かりやすいのに。 私より私の事に悟い彼なのに。 嘘を、突き通せる? 「ごめっ……そんなの、できない…っ!」 こんな事が起こってしまった以上、彼に気づかれる可能性が高い以上、木田さんとの話も私から彼に告げる事はない。だって嫌だよ、ますます可哀想だから結婚する事になるのなんて。 期限まで言わずにいる。話を聞いた日から確かに心の中にあったその決断を貫く強さを、こんな形で手に入れてしまった。 それでもこの状況から助け出して欲しい人はやっぱりその人。ごめんね。酷い事言って、ごめんなさい。酷い態度とって、ごめんなさい。こんな時だけ頼って、ごめんなさい。 最後の最後の抵抗。体は強張りながら震えて、もう叫びに似た声を上げる事しかできない。 「できなくても、するよ」 「た、すけて…助けて……こぉ、だい…紅大…紅大……!!」 「紅大、紅大って…煩いなぁっ!」 「だめだよ?やめて?こんなの、違う!全然、好きだからじゃないじゃない!葵の為にもならないよ?やめっ、お願い!お願い…っ!やだっやだやだぁ!こわい!こわいこわいこわいこわいこわい、助けて、助けて!紅大!紅大ぃ!!紅大ぃぃっ!!!」 「多香ちゃんのことが、好きだ。…許して」 開かないそこへ葵のモノが、触れる。 決めたはずなのに抵抗する私がおかしいんだ。 早く、受け入れて、終わらせて帰らなきゃ。 …どこに? 忘年会からずっと忠告してくれて、今日だって無理してギリギリまで気にかけてくれた颯との関係も、兄弟と私の3人の関係も、紅大と颯の関係だって変わってしまう。 もしかして私と付き合わなかったら彼が傷つく事、なかったんじゃないだろうか。 ケンカをしたのも彼を避けてた私が悪い。 言われた通りになった。 言い合いをしたまま飛び出してきた。 自らこんな結果を招いたのに…そんな女、今までと変わらず愛してくれるのかな。無理だよね。 帰ろう。 ひとりになれる自分の家に、帰ろう。 全部全部私が悪い。ごめんなさい。 もう何にも。考えたくない。 そこで、制止の声が突然聞こえた。
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