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分からなかった愛し方(※)
ふわふわ揺れる癖毛を擽る風の様に、上手に人と人の間を縫っていくような付き合いをこなす兄が羨ましかった。
その存在を決して、嫌っているわけじゃない。
小さい頃はタレ目以外の外見も、今より似ている兄弟だった。
金髪でもなく…まだ背も低かったとはいえ平均よりはかなり高かったから、さほど伸びていなかった兄には近いぐらいはあった小学校高学年。
性格は全く違った。
まず兄を見て、兄ありきで僕の評価に繋がる周りからの目が嫌いだった。ふとした拍子に『似てないんだね』とぶつけられる言葉の前後を想像してしまう。
『(中身もお兄ちゃんに似ていたら良かったのに)似てないんだね』
『似てないんだね(がっかり)』
僕の向こうに癖毛を見ているのが分かる視線に、勝手に想像が膨らみどんどんとひとりで閉じ籠る事が習慣だった。
高校生のあいつとの初対面。
小学生なりに気がついた。
この人も同じひとりだな、と。
「那古。なんか弟がすごい形相で睨み付けてくるんだけど、あれ何」
「えー?どしたの葵。一緒に遊ぶ?」
これが僕の成長の先。
ずっとひとりでいる、目。
大嫌いだ。未来でもひとりの姿を想像させる…自分と同じ孤独な奴の事なんて!
「そんなやつだいきらいだ」
「はぁ?なんだ那古弟、ケンカ売ってんのか」
「初対面の小学生にそこまでマジになっちゃうってどゆこと?前世で何かあった?」
颯の事は『那古』
僕の事は『那古弟』
それはあいつ以外にも何度も受けてきた呼ばれ方。反対に颯が『那古兄』と呼ばれる事はほぼ無い。
どうして颯ばっかり主体なのさ。
その呼ばれ方、大嫌いなんだ。
背が伸び、顔立ちもあまり似ない成長をしてもまだ兄と区別をつけたい欲は収まらず、金髪に染めてみた。友達はいたけど面倒に思われている事には気づいていて、ひとりの時間を増やしたかったしちょうどいい。暗い髪色ばかりの生徒の中際立って目立つ、という事はそれだけ区別がつくという事だ。
両親はひっくり返り、兄は『どうしちゃったの、それ』とやや悲観的な表情だった。
『似合ってると思うよ』
彼女がくれた言葉と撫でてくれた手は、寂しかった心を掴むのには十分すぎた。
複雑な感情を持ちつつも、頼りにし信頼し、いつも近くにいてくれて…全てではないにしろ寂しさを埋めてくれていたのもまた颯だった。
そんな、優しい兄。
じゃあこの気持ちをくれる彼女もきっと『家族』なのだと、思った。
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