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何をしても許してくれそうな彼女の雰囲気に、他の人といる時より分かりやすく機嫌が変わるのを見せてしまっていた。家に帰ってから、ああ、あの時気持ちのバランスをうまく取れていれば落ち着ける彼女の側にいる時間が増えたのにと、後悔するばかりだった。
身長差がかなりあるから、膝を折らないと抱き締められないくらいの小さな体。近づけば漂う…甘いガムのひと噛み目、鼻に抜ける濃ゆい果物風味のいい匂い。『葵』と名前で呼んでくれる声。
僕の機嫌のぶれを目の当たりにしても尚、何も変わらず接してくれるあったかい女の子。
幸せの近くにいつも居て、笑っていそうなその存在を大切にしたい。大切な『家族』だから、触れ合いたい。いつまでもこのままでいられると思っていたのに。
あいつが邪魔してくる。
颯と彼女と3人で撮影した時。
ふとした時に初めて見た『女性』の顔。
大人だった。匂いまで違った。
まさかあいつの事を考えてそんな顔になったんじゃないよね?そんな顔、あいつはさせてあげられないよね?ひとりで、冷たくて、可哀想な奴だもん。
だから多香ちゃんは騙されてるんだよ。
そう思いたかった。
『どうしてそんなに紅大の事が嫌いなの?』
『そんなの…分からないよ』
『じゃあ考えて。分からないのに嫌いなのはおかしくない?話をしたり…中身を知ったら友達になれるかもしれないよ?』
理由なんて、初対面の時から気がついてる。同属嫌悪。でもそれを言えば自分がとんでもなく寂しい奴だと気づかれて格好悪いよ。
いつもの様に抱き締めた姉を、取られそうで怖かった。誕生日的に彼女の方が少し上だから、その姉に分からないと言えばこっちをずっと気にしてくれると思っていた。
クリスマスにヘアピンを渡した時は本当に嬉しそうで。
僕がそんな顔させてあげられたんだと思うと、喜びと同時に勝手な優越感に浸っていた。
あいつには出来ないこと、僕出来るから。と。
あいつが貰ったことないクッキーだって、僕にはくれる。でも近い内に渡してしまう雰囲気がして、悲しくて…やっぱり彼女の中はあいつの事でいっぱいだった。
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