境界線の先

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「…詳しくは言えませんが」 今朝受けた衝撃を吐き出したい気持ちにさせる人だった。例えそれが、元に戻った空気をとんでもなく悪化させる可能性があるとしても。 「俺のせいであんな目にあってしまいました」 「だからお前、何してたんだっつってんだろうが」 静かに話を聞いていた木田さんの空気だけが変わった。ずっと崩れている執事感。今にも襟首掴みに来そうな体勢。 「すみません」 「謝るぐらいならせめて何があったか詳しく話すくらい出来るだろ」 「俺のせいです」 「だからぁ…。悠一郎さんもう、いいですか?聞き出せばいいでしょう?」 どんな聞き出し方をされるか震えだしてしまいそうな雰囲気。確実に痛みの伴う方法だ。それでいい。ふたりがかりで彼女が痛めたのと同じぐらいに、痛め付けて欲しい。その資格のあるふたりだ。文句も何もない。 覚悟がより固まるような、痛みが欲しい。 「色男。それは違う」 本人は普段通り、挨拶の様な気軽さで言ったと思う。ところがその言葉の威力はとんでもなく、迷い無く言いきってくれる救われる言い方だった。あまりの揺るぎ無い言葉に木田さんも止まった。 「お前がしないといけないのは、そんなくだらない理由で落ち込んでる事なのか?」 その通りです。 今しないといけない事は、彼女を支える事はもちろん、加えて、欲しい人を貰う事。 その為には目の前の悠一郎さんを味方につけなくてはいけない。幸せな未来を手にする為の扉の鍵は…確実に、この人。 境界線は、自ら越えた。 「許可していただきたい事が、あります」
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