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悠一郎さんは迷いなく聞く耳を持ってくれたけれど、木田さんの耳は塞がっていた。
「よし。聞こう」
「聞かなくてもいいでしょう、ろくな事じゃないですよ。大体彼、多香子さんの事、呼び捨てにしましたけど」
「木田うるせぇ。さん付けで呼ばないといけないのはお前だけ。色男はいいんだよ」
「どうしてですか」
「言わないと分からないか?」
「言ってもらわないと納得できません」
後ろにいる木田さんの方を向くわけでもなく、めんどくさそうに悠一郎さんが捲し立てる。
「お前は茅香にとってあくまで家族同然の男なだけだからだ。家族でもない、恋人でもないただの男から変に好意を持たれている。色男は恋人だ。そこに口出しする事じゃない。様子見てりゃちゃんと好き合ってる事は分かるからな」
「でも」
「お前には、期限まで暴走しないようにちっせぇ制限をかけただけ。待ち続ける時間を決めたのはお前自身だぞ?そこんとこ周りに当たり散らすなよ?」
一体何の期限だ?完全に彼女も関わっている内容なはず。ただ、質問出来る雰囲気でもなく疑問を口にする間もなかった。
「それに…今の茅香に、お前の愛し方はよくない。変に手出しするのはやめてくれ。色男に何かするのも駄目だ。お前に出来ることはただ静かに見守る事」
「初対面のこんな男に甘過ぎでは?」
「しつこい。邪魔だ、お前」
さらに、顔が歪む。
「大好きな茅香の様子でも見に行ってこい。まだ起きないだろうけど。あ、手ぇ出すなよ」
おら、行け。と手で虫を払うような動きに、明らかに納得していないまま機嫌の悪そうな彼は渋々部屋を出ていった。扉を閉める音は、反抗期の様な激しい音だった。
執事の上着を脱ぎ、扱い難そうな木田さんがこんなに風に従うのか。
彼が悠一郎さんの事を尊敬する人と言っていたのは納得だが、恐ろしい人という印象に受け取れた表現には納得できなかった。
むしろ、話がしやすいような。
「あいつはちょっと茅香が好き過ぎてな、お前との仲が良くて焦ってるんだ。悪かったな」
「いえ。今寝てるんですか?」
「気を失いかけてたから隣の部屋に拾ってきたらそのまま」
やっぱり、働くのは厳しかったか…。
「すみません。出勤もかなり止めたんですが」
「あいつ聞かなかっただろ。かまわねぇよ。で?何を許してほしい?」
「同棲させてください」
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