境界線の先

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父親との、というよりは…友人と、と言った方が近いような会話はそれからもう少しだけ続き、ようやく終わりが見え始めた。 「車どこに停めた?」 「駐車場を使っていいか分からなかったので少し離れたところに」 「次からは入り口に1番近いうちの駐車場を使っていい。今日はここまでだ。茅香は木田が下まで運ぶから、色男は車、前まで回して来い」 「いえ。俺運べます」 「今日は引け。説明が必要か?」 言われて、考える。 この部屋に来るまでの社内の構造。見慣れない男が眠っている彼女を抱え、会社から出ていく姿が見られ易い。何か聞かれた時に説明は難しいだろう。反面、木田さんならおそらく何とでも言い訳はつくはずだ。 「…分かりました」 満足げに立ち上がると部屋を後にするよう促してきた悠一郎さんに、最後にしてほしい事を頼もうとした時だった。 「色男」 上から挑戦的に見やられてもちっとも不快じゃない、全てを見透かされているようなその瞳は、全く見た目の似ていない彼女と重なる。 中身がそっくりなんだ。 態度の豹変の仕方といい、その視線といい…またえらいところを受け継いだんだな。 「誰かに『喝』入れて欲しいんだったら一発殴ってやるけど?」 あの日の彼女の気持ち。 これから背負う彼女の事。 気合いを入れる物理的な衝撃が欲しいのがどうして分かるんだろう。 全然似てなくて…そっくりな父子だ。 「頼もうと思ってました。お願いします」 「上等」 心配されたくなくて見えない所にお願いしようと思っていたのに、ニカッと子どもみたいに笑った悠一郎さんの動きの方が早かった。 俺の家のベットで目覚め、まだ声も出ないくせに真っ先に俺の口許に出来た傷を心配してくれた彼女には…ちょっと気合い入れた、とだけ伝えた。
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