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俺がしてあげられる事ってなんだろう。
いつでも、どんな時でも考える。
噛み跡は薄まっているものの、その痛みや存在感は残っているようで自分を引っ掻く事はやめられていない。他にもまだまだ後遺症は残っている。
「汚くない」
あの日と同じように明るいベッドでお互いに上半身だけ肌をさらし、彼女の傷に、肌に、そっと手を当ててあげる事がリハビリのように続いていた。
めちゃくちゃにしてほしい願望がまだ残っている瞳が、悲しそうに揺れる。
今ではつけられた跡よりも自ら引っ掻いた傷の方が目立ち、触れられると精神的に疲れるのかすぐに眠り始める事が多い。
彼女の願うままを、叶えてやりたい。悲しい顔をさせないようにしてあげたい。
でもそれじゃ駄目だ。虚しい思いはさせたくないと、あの日に強く感じたじゃないか。
その考えの繰り返し。
きっとこの選択がふたりの未来の為だと信じて言い聞かせる。彼女には立ち直れる力があると、誰よりも信じているから。
「汚くない」
ほとんど眠りに落ちている意識を戻さないようにゆっくり横向かせ、1か所吸い上げる。本人には知られたくない、知る事もよっぽどの事がない限りない…してあげられる事。
きっと今日も、夜中に何度も目覚めてしまうんだろう。あんな時まで愛してくれているように。俺だって愛している。そんな気持ちを込めて、短い眠りに落ちた体に服を着せ、そっと抱き締めて眠る。
重みと存在を間近に、電気が着いたままの明るい夜を過ごした2週間だった。
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