もうひとつの境界線の先

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「結婚しようと思って」 「おお!」 「でもまだ相手にちゃんと伝えてない。伝えられない状態なんだ」 「お?」 「彼女なんだ。絶対彼女だ。彼女じゃなきゃ俺は一生独身でいい」 「おお…」 「いつになるか分からないけどちゃんと話をできるようになるまで待って、そしたら言う。俺がやらないといけないことはちゃんとやるから…だからお願いだ!両親にこの話を通すの、協力してくれ!」 情報も突っ込み所も沢山あるだろうに、何も反応のない嫌な間。 「つまりは…技術革新を待つ、という事かい?」 「…は?」 「2次元の人物(キャラクター)を3次元に起こせる社会になるまで待つって事かなって。まさか紅大がそっちの世界の人をそんなに好きになるなんて思わなかった、いよいよ現実から逃げたのか?」 「茶化すな!兄貴も年始に会っただろ!」 ごめんごめん、と笑われた。 「いやぁ、あんまりにも必死だからつい。多香子ちゃんね、はいはい。分かってるよ。なにかあったの?」 「詳しく言えないけど今ちょっと…塞ぎ込んでる」 天井を見、俺の話を思い返す仕草。 「つまりプロポーズ前に、話をある程度進めておくって事だよな?」 「彼女の父親にはもう話してきた。母親はいないから」 「それはなかなか…自信があるのか、犯罪的な思想なのかどっちだ?」 「自信がある。逃がさない。外堀を埋める。年明けからは同棲するから」 「同棲か…。お前は家を出てるからそこまで煩く言われないとは思うけどさ、一般より意味は重いぞ?本当に進めていいのか?」 体裁云々、煩い昔ながらの人も多い親戚。関係者。本当に近しい人はめんどくさくないのに、そんな奴らのせいで縛り付けられている感覚になる。『露利』という家に。血に。 同棲と聞いていい顔をしなかった兄貴に、対向できる唯一の手札を持っている。使い所は今しかない。 「兄貴なんて付き合う前から勝手に未成年のまなとさんを家政婦でもなんでもなく、ただここに住み込ませてたくせに。それだって言わば同棲だろ」 「酷い弟だ!痛い所を!」 痛んでもない腹を抱える仕草が腹立たしい。 本宅からは少し離れた兄貴用の一戸建て。バレずに過ごすことは難しくない。ただ、その家に未成年を連れ込んで住まわせるって…しかも俺より流れる血に縛り付けられている立場の、長男。寛大な両親にだってバレたらまずい。煩い親戚共にバレたら更にまずい。 「ちょうど良さそうな子が落ちてたら拾うだろう?」 「小石かよ」 「まなとが小石?それは聞き捨てならない。宝石さ」 「宝石はそう簡単に落ちてない」 「それが落ちてたんだ。ラッキー!」 駄目だ。このままだとずっとふざけられて終わる。 「バラされたくなかったら、協力しろ」 「はいはい。脅されなくても最初から協力するつもりだったよ、弟をここまで変えてくれた人となら…いいんじゃない?結婚」 結局遊ばれていただけな気がする。 「あの子が義理の妹かぁ…結婚したらまなとと多香子ちゃんと俺の3人で出掛けてもいい?」 「なんでだよ、駄目」 「じゃあ協力しない」 「じゃあバラす」 面白くないなぁ、とコーヒーを一口。 「まあ、年始までに両親とは話がつくんじゃないか。進めるとしてもそこぐらいまでだろう?」 「それでいい。そこの反応次第で変な見合い話が来ても全部蹴り潰してもらうから」 「不思議な内容だから、彼女とのこと根掘りはほり聞かれるけど」 「答えられる事ならなんでも答えるし、話をする為ならどれだけでも時間は割く。あ、夜は難しいかもしれない。彼女に毎日会いに行くから」 「では親愛なる弟へ、今回のスケジュールのプレゼントだ」 スマホに送られてきた年末年始のシフトのような表を確認する。 うわー、なにこれ。 茶会に親戚の集まりにパーティの出席に挨拶周りにと朝から晩までびっしり。これに加えて両親と話をつけて、彼女に会いに通って… 「相当大変だな?」 面白がるように反応を待たれているけど、ご褒美が待ってるからこんなのどうってことない。 「上等」 無敵そうな彼女の父親の威を借り、さらに奮い立たせる。ニカッと笑って返すと、本当に変わったなぁと感慨深げに眺められた。
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