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「それにしても、お前ならもっとすごいの捕まえられるのにどうして茅香なんだ?」
「全部を、受け止めたいと思ったからです。彼女が受け止めてくれたように」
「それまではいっぱい食ってきたよな?」
「まあ…はい」
からかうような笑み。そして視線も全てそらさず受け止めたが、恋人の父親とする正しい会話はまだ掴みきれていない。
「ひっぱたかれて目が覚めたんです」
「俺は茅香しか知らないから、そこんところのお前の気持ちは分かってやれない。責める気も無いが」
え、その見た目で?という疑問を外見に固執していた自分が持つのは矛盾だろうか。
「たくさん知っていそうな見た目ですけど」
ついていきたくなる豪快な性格。見た目も悪くない。モテたと、いや、進行形でモテると思う。
「そういえば、茅香子さんを無理矢理奪って結婚したんですか?」
「誰がそう言った?」
さらに声が低くなる、豹変だった。
「多香子が心配していました、繋馬さんの図書館で。茅香子さんが『2度目の結婚は嫌だった』と言っていたみたいなので」
「おお、なんだあそこ知ってんのか。ふぅん…奪った、ねぇ…」
きっと今、過去をざっと振り返っている。そんな焦点が合っているようないないような目をしている。
「1回だけ奪って…奪われたな」
戻ってきた目は若気の至りを告白するかのように細められ、詳しく質問する前に口を開かれてしまう。
「他にも何か言ってたか?」
「自分の体は大切にしなさい、と言われていたみたいですが」
「そうか。そうだな。茅香ならそう言うだろうな」
どんな母親でも言いそうな言葉だ。けれどそれとは違う意味合いに聞こえた。
「特別なにかあったんですか?」
じとっと睨んでくる吊り目が、ここから先を話してもいい男かどうか品定めしてくる。
結果は、合格だったらしい。
「初めて会った時は別な男と結婚してた。あの図書館に気紛れに置き去りにして、その間、家に他の女連れ込むふざけた野郎だったみたいだが1番ふざけてたのは」
初対面の時に感じた威圧を、過去に、その男に、念で飛ばしているかのような視線が壁に放たれる。
「顔以外痣だらけだった」
視線は壁を貫く事は出来なかった。
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