惹かれた人の愛し方

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特殊なふたりとひとりの子分に見守られ、多香子さんはどんどん成長する。家が楽しすぎるのか友達と遊びに行く事は頻繁ではなく、茅香子さんと友達のように話している姿をよく見た。 「茅香はどうして悠一郎と結婚したの?」 小学校に通い始めた多香子さんは、父と母が互いに呼び合う名前で両親の事を呼んでいた。小さい頃から茅香子さんにそっくりで、ふたりが身を寄せ合いながら会話をしていると眼球が混乱してぐるりと回転し始めてしまいそうな映像だった。茅香子さんが、具現化した過去の自身と話していると言われても疑わない。 ふたりも楽しんでいるようで、長い髪も服装もいつも揃いの物だった。 「結婚ね。私はふたりとしてるんだけど」 「そうなの?」 「2度目の結婚は嫌だったな。多香子は…自分の身体は大切にしなさいね」 「嫌だったのにどうして?」 「どうしてだろう」 「えー、何それ」 「お願いを叶えてくれたからかな」 「どんなお願い?」 「月が欲しい、とか」 「月なんてあげられない。嘘だよ」 「本当よ?どうやってかは、秘密」 自分はその時テレビのリモコンを操作しようとしていたのに、その話に笑いだしそうになり…手元が狂った事を覚えている。 月。彼はどうやってそのお願いを叶えたのだろう。いやいや、きっと茅香子さんの冗談だ。 「悠一郎って格好いいけど甘えん坊でね、『茅香がいないと生きていけない』とか言うんだから」 「そんな事言うの?」 「似合わないでしょう?」 目が合った。 聞いてはいけないことを聞いてしまい明らかに目を泳がせた自分を、なんとも余裕そうに観察しながら人差し指で内緒のポーズをくれると、再び娘と目を合わせていた。 「でも似合わないような事をしてきたら…それは本当に真剣な、本心の時だから。笑ったりしないであげてね?彼のそんな所が良かったの」 「分かった!」 尊敬する男らしいあの人が『生きていけない』などと言うのかと、驚くと共に…そこまで言わせる彼女の方にも、興味はとっくに膨らんでしまっていた。
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