惹かれた人の愛し方

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「ひろむ。今度結婚するの?」 「しますよ」 ある日の夕方。両親から聞いたのだろう。問いながら見上げてくる顔はなぜか驚いていた。相手はチームにいた女性できちんと付き合えていたかは微妙な相手だったが、結婚を望まれたから特に断る理由もなく従う事にしていた。 「内緒の話していい?」 「どうぞ」 小学生の多香子さんに手を引かれ部屋の隅まで来るとしゃがむように誘われ、小さいおでこを2度叩かれた。額同士を合わせる愛情表現が欲しい合図。望み通りにくっつきながら、幼女が言う内緒とは一体どれだけ微笑ましい内容なのだろうかと待っていた。 悠一郎さんは不在、夕食の準備に励む茅香子さんが間違っても近づいてこないかスパイのように目を光らせていた丸い瞳。近い距離で、潜められる声。 「茅香の事が好きなのに、他の女の人と結婚しちゃうの?」 なんの構えもしていなかった所に投げ込まれた豪速球を受け止められず、床に腰が落ちた。 「好きじゃないですよ。結婚はひとりとしか出来ません」 「茅香はふたりとしてるんでしょ?ひろむともすればいいんじゃないの?」 母親から言われた事を理解しているのかいないのか、大人の恋愛は難しいねと首をかしげる仕草は可愛らしかった…、のに。 「悠一郎に憧れてるんだよね?」 「そうですね」 「悠一郎が好きになったからひろむも好きになったの?」 「違います」 今思えば、また痛い所を突かれている。幼すぎて成長した本人はこの事を覚えていないようだった。
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