惹かれた人の愛し方

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ひろむ、どうしたらいい? ひろむはどうするの?じゃあ私もそうする。 ひろむが言うならそうなんだね。 それから、多香子さんは自分に依存し始めた。その様子は茅香子さんに頼られているようで自分勝手に満たされていた。 「お前正気か?」 茅香子さんが亡くなってまだ間もない頃。将来多香子さんが独身なら結婚したいと、悠一郎さんに宣言した時は正直肝が冷えた。吊り目は斜め下から睨み上げてくるとさらに鋭さを増す。 「小学生相手にそんな先の結婚を決めるってふざけてんのか」 「本気です」 「…茅香子が関係してんのか?」 「してません」 茅香子さんが亡くなった直後でなければ悟い彼だ、もう少し問い詰められていただろう嘘も、その時は奇跡的にバレなかったのだ。 「これからは多香子『さん』って呼べ」 「どうしてですか」 「どうしてもだ。態度は今までと変えるな」 そうして、大人が小学生に向かって『多香子さん』と呼び掛け始めた。最初は面白がられていたが、思春期頃からは居心地悪そうにされ、しかしそれも年数が経つと諦められた。 多香子さんのお願いは全て叶えてきた。茅香子さんが『悠一郎がお願いを叶えてくれたから結婚した』と言っていたから。 自分が気持ち悪くおかしくなっているのには気づいていた。彼女を幸せにしてくれる人が現れたらそれでもいいと思いながらも…傷でも痣でも作ってこないだろうか、それなら何歳だろうと悠一郎さんのように助け出してあげるのにとも考えていた。 赤い紐が手首につくまでは。 それを見つけた時の自分の気持ちに驚いた。自分の物なのに誰に手首輪つけられた。いやいや違う。自分の物ではないし幸せならそれでいいのだ、元々茅香子さんに惹かれたのだ。男を知り、彼女とかけ離れてきた多香子さんじゃない。だがしかし、全く幸せそうじゃないのが気になる。待てよ。多香子さんに惹かれているのか? 茅香子さんなのか、多香子さんなのか。 いつの日か眼球が混乱しそうだった様に、自分の中でもふたりがぐるぐると目まぐるしく入れ替わる。 ここにいるのはどちらで、どっちを好きで、どっちが…どっちだ?混乱は、方向音痴な好意をわざわざちらりと多香子さんに見せつけさせる。 交際相手が誰なのかすら口を割らない。気持ちの向かう先を見つけられない自分はただその紐の行方を見守るしか、出来なかった。
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