惹かれた人の愛し方

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2度目の裏切りは自宅の暗いベッドの上。 目覚める気配のない彼女の服を、ゆっくり脱がす。下着だけになった姿に性的な興奮が全くなかったわけではないが、それよりも。引っ掻き傷のような赤色が各所にあるのが気になった。暴行された跡を、自傷しているのか。 1度目の時と同じように閉じられた瞼。 唇の端に3秒、キスをした。 あたたかかった。 体に傷を作ってもやはり、彼女は茅香子さんではないと知る。 「このキスは私だけの、秘密です」 誕生祝いのデート。少し大人の雰囲気を出せば一瞬惚けたようになる瞳。直後、流されちゃダメダメと必死に首を振る動きに倣う髪。はしゃぐ姿は茅香子さんの反応とはかけ離れているのに、目が離せなくて。 学校まで迎えに行けば、教室から無駄に大きく手を振ってくれた。 「そんなのいいから早く降りてきてくださいよ」 あまりにも必死な様子に、正門前で煙草をくわえたまま笑ってしまうと、もっと振ってくるのがまた可笑しくて。 途中からはちゃんと好きだったみたいなんです、あなたが。求めているものが過去なのか現在なのかわけもわからず混同させ、あんなに辛そうな顔させて、ごめん。 茅香子さんをなぞる行為はこれで最後。可哀想ですけど追い込みます。 当時は娘に試して『まだ早かったか』と驚いていた彼女からの愛情。成長した今なら、良いきっかけになるかもしれない。 さあ、露利さんと幸せになる為に未来に繋がる現在に返ってきてください。あんな男性はきっとふたりといません、いい青年ですよ。 もしも。 何もかも投げ捨て依存してくれるのならそれはそれで結構。責任持って面倒みます。茅香子さんにそっくりで、全く違う…多香子さんを。 自分はもしかして茅香子さんが欲しかったわけではなく、ただ彼に近づきたかっただけではなかったんだろうか。バイクに乗せてくれたあの日から。 そうだ、自分は確かに感じていた。 『彼になりたい。近づきたい』と。 多香子さんには『悠一郎が好きになった人だから、ひろむも好きになったの?』と早くから指摘されていた 茅香子さんには『あなたが思っている感情とは、違うのよ』と諭されていた。 悠一郎さんには『多香子さんって呼べ』と言われて内心苛ついていた。『茅香子さん』と呼び方が同じで喜ぶべきところなのに。 「あの人は本当に恐ろしいですね…」 荒れた部屋。当然の報いを彼から受けボロボロの自分。煙草に火をつけ呟いた。 『お前は茅香にとってあくまで家族同然の男なだけだ』 そんな風に言わないでくださいよ、悠一郎さん。 その中に入りたかったんですよ。 尊敬する彼が、周りから勝手に推し上げられたあの時とは違う、自ら選んで掴み取ったチーム(家族)の一員に。
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