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髪に触れる。伸びた前髪はまた目にかかりそうな長さになっていたけれど、そんな事で魅力は翳らない。自分の弱さをこれだけ自覚しつつもひたすらに私を待ち、支えてくれた優しい魅力。1輪でも凛と咲く、私の百合。
流れ続ける涙がつたう、綺麗な曲線を描く頬を撫でる。
「いっぱい辛い思いをさせて、ごめんね」
「絶対お前の方が辛かったよ…」
「あなたがいなかったら生活できてない。それに甘えて、いつか紅大がなんとかしてくれるって、自分で考える事を止めてたの。背中の、痣。いつも守られてた。痣以外もずっとずっと私がこれ以上傷つかないように守ってくれてた」
「そんなの当然だ」
「これからはあなたが教えてくれたように少しずつ、未来を見るから。それでね、」
これから伝える、避けては通れない彼との事をきっと彼は許してくれない。それでも貫く、最低な女。
「私と彼の為になる事をさせてほしい。完全に忘れることは、難しいから」
「…待て」
「すぐには出来ないけれど、」
「待て。聞きたくない。言うなっ」
「葵と会って話をする」
「絶対駄目だ!嫌だ!」
駄々をこねる子どものように、首を振り続ける。この考えはぼんやりとしていた時…颯と再会した時から既に、自分の中にあった。
あの時『葵にも会いたい』と伝えたのだ。諦めなさいと諭されたけど、自分を取り戻せたこれからなら機会はきっとある。きっと作る。
「ごめんね。でも、いつか必ず叶える」
「駄目。嫌」
「紅大の側からは離れない。こんなに大好きなのに。安心して?もう気持ちは大丈夫だから」
「なんでもかんでも受け入れようとしやがって…っ、ほっとけばいいんだあんなクソ餓鬼!あの時の事だって怒ってるんだ!全部聞き出したからな!俺の為にお前が犠牲になるような、あんな…駄目だろ!」
「本当そうだね。困った女です。だからこれからは、今みたいに教えて?私があなたを傷つけてるって教えて欲しい。そうしたら自分を嗜めるきっかけになるから。鈍感だからひとりじゃ気づけない、あなた以外は誰もハッキリ教えてくれない」
「ああ分かった。これからは遠慮なく伝える。お前の全て受け入れる所を、俺は受け入れてやらない。毎回叱ってやる」
「私はあなたの弱さを、全部受け止めてあげる。他では見せられないあなたの弱さは全部私にください。罵ってもあげるし…もちろん、癒してもあげます」
再び距離がなくなった、体。
ハッキリと思考が戻ってまだ数時間。そのほとんどを、彼と抱き締め合って過ごしている気がする。
「お前はすごいな。ちゃんと自分で考えて、進めるんだから」
「紅大が気づかせてくれるんだよ。いつも考える時間をくれて…待っててくれてありがとう」
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