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「本当に離れない?受け止めてくれる?」
玄関を開ける前の大人の落ち着きから一転した、彼の子どもな部分がこちらの様子をちらちらと伺ってくる。
笑ったら拗ねてしまうだろうか。
可愛いくて、そんな所も好きなんだけどな。
「離れないよ?受け止める。どうしたら安心できる?紅大が1番安心することをしてあげたい」
あの日。彼がいつも通り抱き締めてくれた事がすごく嬉しかった。『いつも通り』があんなに嬉しいなんて思わなかった。
「多香子を感じたい。ここにいるって、感じたいんだ。全部で。決して…抱きたい気持ちが強いわけじゃなくて」
「うん」
「怖くない?」
「大丈夫」
「俺、ひどいことしようとしてるよな?」
「紅大の為になることに、私を使って。遠慮なんてしないで。あ、でも」
「ん?」
「出来るかどうか分からないよ?」
ふっと笑われた。
「お願いをひとつ聞いてくれる?」
離れようとすると何度も引き留めてくる手としばらく戦った後にようやく逃れ、持ってきたものを差し出した。
「あのリボンだったのか」
目覚めた時、枕元に寝転がっていたあの日のリボン。捨てちゃいけない気がしてこっそり持ち帰り、ウサギに掛けて大事にとっておいた。
この部屋にももちろん持ってきていた大切な物。ベッド脇の棚の一角に置かせてもらっている。
「手首を見ると紅大以外の事を思い出すようになっちゃったの。だからまた、してくれない?ずっとじゃなくてもいいから」
「いや、ずっとだ。ずっと繋がったまま…俺の事は全部、受け止めて」
「それは受け止めすぎに入らないの?」
「恋人特権なので入りません」
「やっぱりズルい」
またリボンで繋がる事になるとは思わなかった。練習の様に、指を絡めて繋がる支え続けてくれた手。これからももちろん支えてもらうし、私も支えていく。
「受け入れられない事ひとつ見つけた」
「ん?」
「紅大以外の人と付き合う事!」
「別れる想像すらさせたくない」
まだまだ話したい事がありすぎて、ベッドまでなかなか辿り着けない私達だった。
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