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今までよりほんの少しだけ光量を絞られたライトが、前に進めた自分を歓迎してくれているみたいで唇の端が上がってしまう。
駐車場に居た時は暗さなんて眼中になかった。彼も同じように見えた。これからもっともっと、暗くなっても平気になる事を目標に過ごすのだ。
シャワーを浴び、匂いも何もつけていない肌を性的とは程遠い…パントマイムで人型を表現するようにひたり、ひたりと空気との境界を触れられ、触れる。のんびりとした穏やかな時間だった。
「すごく懐かしくて、安心する…」
「そうだな」
リボンをつける前に、と背中の痣に紅い印をつけた後、見下ろしてくる瞳は獰猛ではなく慈愛で濡れていた。
「怖くて止めたかったら教えて。でももし少しでも頑張れそうなら…俺の為に、我慢して?」
あの時と変わったこと。
彼が弱さを見せてくれる回数が、増えた。
子どもみたいになる回数が、増えた。
笑顔を見る回数が、増えた。
まだまだ沢山ある変わった所。
顔を見ていたいのに、視界がボヤけた。
「早くリボンしてくれないと頑張れないから、蹴りあげちゃうかも」
「それは困る」
ふたり分の手首をまとめ、赤いリボンがぐるぐると巻き付けられる。
最後に口と手で固結びしてくれた。
あの日の幸せまで、戻ってきたみたい。
「ありがとう」
「こちらこそ」
「今度は私が唱え続ける番。離れないって」
「離さない」
「離れないよ」
ただ触れるだけのキスなのに、優しくてあったかい。いつもの抑えた様な笑みではなく、心からの笑顔が鼻のすぐ先で見えた。
「初めて一緒に出掛けたときから…笑顔が魅力的な人だって思ってたなぁ。外見なんかより、遥かに」
「もう1回…キスしていい?」
大丈夫だよと答える前に落ちてきた唇は震えていた。
指が、入り口に触れる。
リハビリの間触れてくれていたのは上半身だけ。ここから先は…どうなるのか自分でも分からない。
痛みを訴えても、止めてくれなかった恐怖。
「あ……!」
絶望を思い出しかけて、奥歯が鳴る。
今はあの時と違う。大丈夫。大丈夫っ。
進まない行為に、無意識に閉じていた瞼を開けると困った顔に覗き込まれていた。
この気持ちをどう伝えようか。
大丈夫だ、続けて欲しい。怖がってしまうのは条件反射で我慢する事は苦ではないと、彼が遠慮して止めてしまわない為には…どう伝えたら。
「ここ。痛かったな…」
必死に考えていたのに、与えられたのはまるで頭を撫でるように、性行為とは全く思えないあやす動きだった。
それでもう全て、恐怖は許されてしまった。
「汚くないからな」
「うん。でもごめん…やっぱりまだするのは…濡れないし」
合図のようにふいに中が潤う感覚がした。それはゆっくりと流れ出、彼の指に触れる。
「あ…」
「ん。ちょっとずつ…」
「大丈夫?」
「っ…あっ…ん、」
こんな甘えた声、出してたんだ。冷静にこちらの様子を伺う相手に対して勝手に興奮しているようで居心地が悪く、腰を捻ると勘違いされたのか眉が寄ってしまう。
「痛い?怖い?」
「大丈夫、痛くないし怖くもないよ。久しぶりでちょっと…変な感じなだけ」
初めて行為をするかのように、ゆっくりと探られ、解される。決して激しくない、スローペースで注がれる愛情に体はじわり、反応し続けた。
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