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膜に包まれた先端が触れたと同時、思い出しかけた冷たい行為。でも目を閉じなかった。心配してくれているのに苦しそうで嬉しそうでもある、普段は整いすぎているのに歪む顔が…綺麗で。
逃すまいとする手の力と、大好きな人と見つめ合って繋がれる幸せを感じていると、もうあの行為をそれ以上思い出す事なく全てを受け止めた。
「うっ、ぁ…っ」
「っ、ああ…多香子の存在が幸せをくれる。動かなくてもイかなくても…すごく満たされる」
本当だ。
あれだけ変わってしまった、汚いと思っていた自分なのに、全然変わってなかった。彼を愛して、愛されてる。体も気持ちも全部覚えている。残っている。
きっとリボンを外した後も今の気持ちと彼の顔を手首を見る度に思い出し、愛情を確認するんだ。
「うん!本当、そうだね…!ありがとう」
「体のほんの一部、包まれてるだけなのに…なんでこんなに幸せになれるんだろう」
「愛し合ってるから、かな」
耳元で囁かれたのはもちろん、あの日も繋がってすぐにくれた愛の言葉。吐息にぞくぞくと皮膚が波打ち、唇は何度も啄まれ…体にはもう彼からの愛情しかなかった。
「今日はこれで十分」
「え?いいの…?」
「ごめん、さすがにこれ以上したら気絶させるまで止まらなくなる」
「っ…それは、まだちょっと……」
「ん。疲れた顔してるし、ここまで。ありがとう」
あの日までのお互いの欲をぶつけ合うような繋がりじゃなくても、私達は確かに満たされていた。今まで以上に。
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