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「本当にクソ餓鬼と会うつもりなのか?」
一層狭まる腕の中。もちろん納得してないご様子だ、無理もない。
「会わせたくない」
「駄目。会わないといけない」
葵はまだ、未来に向けて進み出せていない。あんな事をされたのだから彼の言うように放っておけばいいのに、そんな気には全くならない。
私の事が好きでしてきた行為ではなかったけれど…必死さに、多少でも本当はそんな気持ちを持ってくれていたのかも、なんて考えてしまう。
だとしたら私が出来ることは、冷静になった彼にきちんと返事をして、行いを直接叱ってあげる事だ。
大丈夫。
こんな私を叱ってくれる人がいるから。
「あの日どんな顔してたか見てないからそんな事言えるんだ」
「ひどい顔だった?」
「魂が体から離れたみたいだった。俺は絶対に許さないから」
「うん」
「会う日は近くで見守ってていい?」
「葵に何もしない?」
「もうしたけど、足りるわけがない」
「…うん」
ふたりの関係改善は更に難しくなってしまったけれど、それはそれでいいのだと受け入れる事にした。彼が出した答えなら。
「蕩けそうな目。もうおやすみ」
「リボン…解かないで、いてくれる…?」
「もちろん。ずっとこのまま」
「ありがとう…だいすき…」
額にくれたキスが、辛うじて残っていた意識のスイッチを消してくれる。その夜は1度も目を覚ますことなく、朝を迎えた。
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