それぞれの燃え方

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それぞれの燃え方

あの人おかしいんだよ、と。 フライパンを泳ぐ豆腐を力強くまぜながら、父に対する愚痴は始まった。 「朝起きたら抱き締められてて身動き取れなかった事、何回もあるし!当然のようにお風呂にも入ってこようとするし!あんな見た目だから友達から『格好いい』とか言われて調子のって彼氏気取ってくるし!ありえないよね?普通に腰とか抱いてくるの!寝ぼけてたらキスまでしようとしてくるし、寝ぼけてなくてもしてくるしほんと気持ち悪いんだよ!」 麻婆豆腐の具材がどんどん細かくなっていく。 娘と父の普通の距離感は分からないけれど、一般とかけ離れている事はよく分かった。もしかして部屋の鍵はそれが原因でついていたのだろうか。 「お父さんか木田さんと一緒じゃない時は門限18時だよ、高校卒業まで!もし破ったら一生家から出られないようにしてやるとか言ってきて、本当にやりかねないから必死だった!家を出てからはほんと楽になった!」 「よくひとり暮らし許してくれたな?」 「お父さんが持ってるマンションに住む事。お父さんの会社で働く事。全部自分絡みの条件だけどそれなら良いって言うから!」 「それでモデルの仕事を始めたのか…」 「チェーンをかけ忘れてたら合鍵で勝手に入ってきたりするし、掛けてても蹴破ろうとするの!あの人に普通を教えてあげて?そしてあんな父親でごめんなさい!」 麻婆豆腐スープになってしまう前に皿を差し出し盛り付けてもらったが、遅かったのか形をほとんど失った豆腐が泣いている。 『茅香かと思って』とか言って娘を抱きそうなんだよな、やめてほしい。 娘を抱けるというのがどこまで本気なのか確かめようもないが、ほんの少し背中を押されただけで普通ではない関係へ踏み越えてきそうな人だ。 「俺、悠一郎さん好きだけど」 「あの人男にモテるんだよ」 娘もな。
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