それぞれの燃え方

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悠一郎さんを初めて家に招待した日だった。 晩ご飯を一緒に食べませんかと提案すると、ひとり娘が彼氏と暮らす場所が気になっていたのか喜んで了承してくれた。 到着した彼が一通り部屋を見渡して一言。 「なんだ、個室はないのか。エロいな」 エロくない!とキッチンから苛ついた声がしたが、ローテーブルに運ばれてくる料理は普段は出てこないような辛い物が多いメニューだ。彼の好みなのだろう。 「今までのマンションの方が広いだろ」 「私がここでいいって言ったの。ここがいいの」 「色男、俺も住んでいい?」 「駄目!色男って呼ぶのやめて!」 親子が直接話しているのは初めて見る。父親は変わらないけど、娘の方は対応にかなり疲れるみたいだ。 揃った料理を食べ始めて驚いたのは、悠一郎さんの食欲だ。こんな量食べきれるのかと心配になるほど山のように盛り付けられたおかずは、あっという間に彼の胃袋に仕舞われる。 食べづらくなってしまった麻婆豆腐も、皿と口の往復に励んだスプーンのおかげで綺麗になくなっていた。 「ひとまず、良かったな」 「いろいろとありがとうございました」 「……ありがと」 立ち直ってまだ2日しか経っていない為に、ひとりで外出するのは少しずつ距離を伸ばして練習中。 背の高い男性が近づくと動悸はするらしいが取り乱したりはしなくなった。 夜中に目覚める事も格段に減った。 引っ掻く行為が癖づいてしまい、無意識に肌を撫でる手に力が入る瞬間もまだあるけれど、一声掛けるとそれだけで止められる。 彼女は前へと進みだしたのだ。
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