それぞれの燃え方

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「悠一郎さんがいなかったら俺は潰れてました」 「お前、なかなか抱え込みそうだったからな」 およそ1年の間、弱音を吐き出せずそれでも待ち続けられたのはひとえに彼のおかげだ。覚悟はしていたものの…実際に長引けばどうなっていたか分からない。 時に友人のように。家族のように。 週2回以上、という条件の中その倍程は社長室を訪ね、ひとりの男として頼りにしたい彼とじっくり話せる貴重な時間を過ごさせてもらった。 これでなくなる機会かと思うと…残念にも思う。 「もうしばらくは送り迎えします。また話をしに伺ってもいいですか」 「おお。いつでも来い。だから茅香」 「茅香じゃない」 「礼に『悠一郎』って呼べ」 「嫌!」 洗い物を終えて戻ってくるなり命令してきた父親を、効果はないだろうに睨んでいる。 果たしてそれは礼になるんだろうか。 吊り合っていない気がする。 「別に、呼んであげたら?」 「お母さんに呼ばれてる気分を味わいたいだけだよ。茅香じゃないって言ってるのに!」 「昔は呼んでたくせに。ほら、いろいろと尽力してやった俺に感謝の気持ちってもんはねぇのか」 『呼べ』『呼ばない』の問答はまだまだ続きそうだったが、そこを突かれるとかなり痛い。実際かなり尽力してもらった。 「…………悠一郎」 食事が始まってからずっと続いていた会話が途切れ、静寂がより一層耳に堪える時間がたっぷり過ぎた頃。居たたまれなくなったのか、悠一郎さんには顔を一切向けない呼び掛けだった。 「もう寝るっ!おやすみっ!」 呼ばれた方も返事をしないうちにベッドへ逃げ出し、カーテンはぴっちりと閉まった。 「…色男」 見送った彼は神妙な顔つき。 「はい」 「空気読んで3時間ぐらい外出てろ。茅香とベッド借りるぞ」 「そんな空気でてました?」 この人が言うと洒落にならん。 その設定時間もとても嫌だ。 「ちょっと寝顔見てきていいか?」 「どうぞ」
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