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受け取ったビールをすぐに片手で開けた仕草が、自分とは違っていかにも酒豪だ。そのまま軽く、乾杯。
テーブルには簡単に摘まめる料理が何点か残っていたが、どちらも手は出さなかった。
「お話ししていた通り、結婚を申し込みます」
「おお。断られない事を祈ってる」
「でもまだ必要な物が揃っていないんです」
「言えばいいだけじゃねぇのか。それ以外何が要る?」
「悠一郎さんが持っている物です。これで勝ったら教えてください」
中身の減っていない缶を掲げる。
自分にとっては勝負の行方を左右する…『勝負前酒』だ。
「酒か?強いぞ」
「でしょうね」
1度ゆっくり缶を煽った彼。
対照的に一気に煽り、溢れた分を乱暴に拭う。
正攻法が効きそうにない相手なら、自分しか出来ない方法で聞くまで。明日が怖いけれど彼女の為だ。
「そんなペースで大丈夫か?」
「先に言っておきます。俺は全部記憶に残るタイプです。多香子からはキス魔、颯からは地獄だと言われました」
「おお?」
「必要な物は…悠一郎さんから聞き出します」
仕掛けたのはもちろん飲み比べの勝負ではない。
甘えてくる男に耐えられるか。
照れ臭くて教えてくれない話を聞き出す事ができるのか。
そんな勝負だ。
「ゆぅいちろぉさぁん」
「…おいおい」
そのままでも近かった距離を、四つ這いで更に接近して無くした。
近づくほどに分かる彼の逞しさ。
それはもちろん体格や筋肉、浮き出る筋からも知れるが、存在の逞しさというのはこの人ならではだろう。
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