それぞれの燃え方

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「きゃぁああああ!!!!!」 「うぉっ?!」 衝撃と共に柔らかい感触が起き抜けの体を誘惑する。抱き止めたかったが生憎ぬくもりは背中側。いつの間にかテーブルに突っ伏して眠っていたらしい。 背中に張り付くぬくもりはほんの少し震えているが、怯えとは違うようだ。 ベッドから駆け寄ってきた悲鳴の主は髪から服までいつもよりもいろいろ乱れている気がする。 「お父さんと一緒に寝てた!最悪!最悪!」 「最高ー。若返りそう」 恍惚とした表情でリビングへとやってきた、どうやらベッドに潜り込んでやがった父親。 いつも半分掻き上げられている明るい髪は乱れ、全体が下りている。気だるげにあくびしながら体を伸ばす仕草と合わさって普段より見た目がさらに幼い。 「色男、これからたまに変われ。週6」 「週7、俺のです」 「つまんねぇ」 「何があった?」 「紅大だと思ってたから…」 「茅香から擦り寄ってきたから触った」 「ぅわぁぁ!茅香じゃないぃ!」 「おお、そうだった。茅香子の方があった」 「触っておいてなにそれ。謝って」 背中にある柔らかさより茅香子さんはあったのか、と想像しかけたが、朝から騒がしい父娘どちらからも鋭い視線を浴びそうなので振り払う。 「ありえない。ベッドカバー買い替えて!パジャマも!」 「今日休みだろ?買いに行くぞ。デートだ」 「紅大も一緒に行くに決まってるでしょ!」 特に決めていなかった休日の予定があっさり確定したようだ。 「色男」 「はい」 「2度とお前とは酒を飲まないからな」 思い出したのか舌打ちし、盛大に歪んだ顔からは相当な決意を感じた。
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