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更に増えたショップバッグは車のトランクになんとか入った。悠一郎さんを自宅前で降ろした所で、運転席側の窓から小さいが低すぎる声をかけられる。
「明日迎えの時、社長室」
「はい。今日はありがとうございました」
「あの話だけどな」
瞬間。目の前に、顔。
不意打ちでキスされるのかと勘違いした。
鷲掴まれていた髪は加減してくれているのか痛くないのに、首が少しも動かせない。
「もし断られでもしたらそのすました顔面、地面に容赦なくこすりつける」
「すましてるつもりはないんですが」
「今までしたことないようなバイクの走り方でそのまますりつけ回ってやるからな」
「凹凸なくなりそうですね…」
「しっかりやれ」
乱暴に解放され、一瞬だけ揺れた脳が激励の言葉に気がついた頃には、既に悠一郎さんはマンション内へ向かっていた。
相手の父親にプロポーズの成功を祈られるのも不思議だが、断られたら死ぬという妙な強迫観念をもたらされるのも彼だからこそ。
髪を掴まれた瞬間から助手席の抗議の声がすさまじかったけれど、必死に謝りながら髪を整えてくれる手の優しさに目を閉じた。
明日の分も作り置いておけるからと、カレーの仕度が始まった音を聞きながら、ソファを占領する程の戦利品と対峙する。
「とりあえず袋から出すか…」
「どれかに紅大のパジャマが入ってるよ。お父さんからプレゼントだって」
なぜパジャマ。
疑問に思いつつ封を開いていくと確かに1つだけ、どこのお店で買っていたのか覚えがない明らかに女性向けの袋があった。
「なるほど。これは分かっていても燃えそうです」
確かにパジャマと言われたらばそうだろう。
開くと、俺へのプレゼントだという彼女の実用性がないパジャマは、えらく嗜好性の強い物だった。
困った事に好み、ど真ん中。
見つかったら絶対捨てられる。カバー類を収納するついでに、こっそりクローゼットの奥に眠らせた。
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