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くつくつ鳴る、とろ火の音。
野菜がくたくたに煮込まれていく匂いが鼻をくすぐる。
肘まで袖を捲れるようになった腕が鍋をかき混ぜるのに忙しそうだ。キッチンに入ると、さっき見たプレゼントとは正反対な清らかな笑顔がこちらを向いてきた。
「パジャマどんなのだった?」
一瞬、答えに詰まる。
「好きなデザインだった」
「また見せてね!」
俺も見たい。
いやいや、プレゼントは然るべき日まで眠らせておく。どうせあと数日だ。
「今日はお父さんがごめんね?」
なんだかんだ言いながら、本人も楽しかったらしい。あの人はほんと普通じゃないよね、と思い出しながら微笑む姿は、離ればなれになる時間を気にする寂しさを感じなくていい。
洗い物まで始めた無防備な首筋が愛しく、抱き締める。
「…まだ調理中」
「包丁持ってないから除外中なはず」
「洗い物だって調理です!」
「木田さんに軟禁されてた時の状況詳しく教えて」
あの日彼女から受けた説明は、暗い部屋に閉じ込められた事、悠一郎さんが助けに来てくれた事、木田さんが悠一郎さんにオトシマエつけられた事。
ざっくりそれくらい。
明らかに説明不足だがあの時はそんな事より彼女、だったから問い詰めなかったし忘れてもいた。
下着姿だったなんて一言も聞かされていない。
絶対にまだ何か隠しているはずだ。内容によっては明日のオトシマエに関わる。
「教えて」
囁けば忙しなく動いていた手は止まり、無駄に流れていく水音が続く。
「だから…寝室に閉じ込められて、暗くされて」
「なんで下着?」
「起きたらそうだったの。会社で気を失って気がついたら、ベッドで寝てて」
「で…?」
『寝室』ということだって今知った。そこに下着姿で寝かされていた。
あの木田。
もはや呼び捨てだ。
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