それぞれの燃え方

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「家族同然の男なだけ、と言われました」 「それは茅香の色恋沙汰の土俵で言えばの話」 なに当たり前の事で悩みがってと、さっきまで乱暴を働いていた手が、肩に回る。 「世話のかかる弟」 「私は義理のお兄ちゃんだと思ってたよ?もう…家族でいい」 絡み付いてくる腕をそのままに、深く閉じられた瞼が開く頃にはもう、すっかりいつもの木田さんだった。 「結婚してあげようかな、なんて思ってた頃もあったなぁ」 「いつですか。言ってもらえたらすぐしました」 「小学生の頃だよ!」 「その時にはもう悠一郎さんに伝えてましたたし」 「そんな時からずっと?!」 一体何年。 そう考えると、気持ちはともかく、ずっと近くに居て見守ってくれていた事に感謝しかない。強制されてではなく純粋に呼びたくなった。何年ぶりだろう。 「陽紫(・・)。ありがとう」 「いえ。諦めたわけでもないので」 「…はい?」 聞き捨てならない、と力の入った大切な手を包み直す。 「もし露利さんが浮気したらどうしますか?」 「ごめん、想像できない…」 本当に微塵もできない。盲目と言われるかもしれないが、それほどの確かな愛情をもらっている。 それを疑う事は、決してない。 もしもの想像も、即ち出来ない。 「では彼の好みのタイプを教えていただいても?送り込みます。各種モデル、多数在籍しておりますので」 「どこに送るの?図書館?」 「好みは片深多香子。これ以外ありません」 「数打てばあたるやもしれません。浮気が知れたら即刻多香子さんは私が貰います。燃えてきました」 「またそんな宣言して…!」 「誰を寄越そうとなびきません」 そうして、どこからが浮気で、どうなったら貰うのかという言い争いが長く続きそうな予感に、昨日カレーを用意しておいて良かったと息を吐いた。 「やっぱり普通じゃない奴には普通じゃないのが集まるなぁ」 他人事で言う父をしらけた目で見ているとその横、傷だらけの顔が滅多に見せない笑顔でほころんでいた。
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