ふたりの愛し合い方

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さっきまでいた部屋よりは随分親しみやすい広さの和室だった。 「さて。脱いでもらえる?下着だけになって」 「はい!」 理由も分からないけれど威勢よく出た返事。すぐにニットの裾を掴んだ手が『待てよ』、と止まる。 「あの…私で、勤まりますか?」 ご両親に悪く思われていない事は実感できた。それでも、これから覚えなければならない露利家特有のしきたりに対しての不安は大きい。 「それぐらいの気持ちなら帰りなさい。あの子に他のお相手の話なら山ほどありますからね。あんな見た目にこんな家。想像つくでしょう」 さっきまでの様子から、分かりやすく励ましてくれるかもと思っていたけれど、辛辣な答えと、視線だった。 「すみません、弱気でした!負けません!」 「そうね。この家に入るのならそれくらいがちょうど良いわよ」 沙織さんが首にかけていたメジャーを持ち直し、脱衣を促す。元々撮影で着替えることも多いし、サイズを計られることも慣れている。抵抗は無い。 引っ掻いた傷はもちろんうっすら残っているけれど、彼がいてくれるなら何を言われても、大丈夫だ。上も下も一気に脱ぎ捨て下着姿になった。 「潔くて素敵よ。ミヨさん!手伝って頂戴」 「はい、奥様」 弥栄さん以外は移動するのに音を立てないから、ミヨさんも気がつけば背後にいた。割烹着は外され、白いシャツに細身の体が無駄なく収まっている。 「何の為のサイズなんですか?」 「多香子さん用のいろいろ、あつらえるからよ」 「お着物ですか」 「ひとまず3着は頼んでおきます」 そこらで手に入る代物ではないはずだ。それを、3着!それだけ必要な場が多いのだと、改めて気を引き締めた。着付けも覚えなければ。 「生地は選べますか?」 「あなた分からないでしょう。そのあたりは任せていただける?もし希望があるのなら一応、聞きましょう」 「奥様のセンスは秀逸でございますから、ご安心くださいませ」 「もちろん不安はありません。ただ…私の物にも、彼の目印の色をいただけないかなと」 沙織さんの目尻のシワが一層深くなる。 「ご兄弟の名前の由来。大好きなんです」 それからは、女の子だったら真白(ましろ)美紅(みく)にしていた、だとか、小さい頃の話。ミヨさんはまた時折声を詰まらせていた。 沙織さんの着物を借りてどんな柄が良いか悩んでもらったり…女同士のひとときを楽しんだのだった。
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