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お食事も済ませていかれては、と引き留めてくれたミヨさんに頭を下げて、車に乗り込むと既に外は真っ暗。
安堵と、疲労と。
一気に押し寄せてきた物に逆らわず、気がつけば家に辿り着くまで眠ってしまっていた。
あれから更に着物の柄について盛り上がりをみせてしまい、襖の向こうから聞こえた『そろそろ返してくれない?』と彼の諫める声で3時間の経過を知った女性3人、一斉に我に返ったのだった。
帰宅後。念願叶った誕生日のごちそうは、初めて作ってあげたハンバーグ。あの時と違うのは食器がお揃いな所、それぞれに指輪がはまっている所、もっともっと彼の事を好きになっている所。まだまだたくさん。
本当はケーキも焼いてあげるつもりだったけど、遅い時間になってしまったから途中で買ってきたショートケーキは2つ。
お揃いのお皿に、揃ったマグカップ。
2年前とは違う所が目に入る度、身体中がぽかぽか暖かい。
「お誕生日おめでとう!はい、あーん!」
ひとくち目を冗談で食べさせてあげると、そこから食べさせ合いになり…あっという間になくなってしまった。去年の分と合わせて2個ずつでも余裕で食べられたかもしれない。
幸せのケーキは別腹の、さらに別腹に仕舞われるんだと知った。
「両親とミヨさんが悪かった」
「大変なお家って言うからもっとこう…虐げられるかと思ってたのに、全然違った。楽しかったよ!」
「良かった。ひとやま越えた」
一息つくと、途端に甘く緩んだ顔に見つめられる。
「この辺にクリームついてない?」
正面の綺麗な顔立ちは食べさせ合いからずっと眺めていたけれど、口許にクリームがついた時なんてなかった。小さめに掬ったケーキは、普段は見ない程の大きな口に吸い込まれていったからだ。
それでも、じっと反応を待たれている。
「…取ってあげる」
テーブル越し。
体を伸ばして唇を啄みに行ったが最後。私の口許には大量についていたらしいイチゴ風味の甘みは、時間をかけて舐めとられた。
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