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父への伝言を託された、という事だけを感じて嬉しかった、まだ母が生きていた頃。
『多香子が結婚する時にね、茅香はきっと側にいないの』
『どこにいるの?』
『お月さまの向こう』
『うん?』
『その時が来たら悠一郎にこう伝えて。必ず多香子から、直接、これを渡しながらね』
『悠一郎に言えばいいんだね!』
『そう。お願いね』
別れが早いのを知っていたような母親だった。
それに気がついたのは亡くなって3年程経った頃。父に伝える日が本当に訪れるのだろうかと漠然と未来の自分に問いかけながら、あの時の母の真剣さに、絶対に忘れるものかとウサギを見る度に思い返していた。
世間一般よく聞く言葉だ。
けれどふたりにとって大切な事であるのは子どもながら感じていた。
言われていたタイミングとは少し違うけれど。
伝えるのは絶対に今日。
こんなに良い機会は2度と来ない。
彼にもらったタイミングを逃さないよう、父に伝えようと思う。
だからお母さんも一緒に行こう。
思い出の教会へ。
出発を急かす声に、慌ててウサギと指輪を握って部屋を出た。
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