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母が定位置としていた席にウサギと指輪を座らせ、その隣に腰かけると軋みが響いた。
そこから見える景色は、昔そっくりな見た目の人が眺めていたはずの、小さな祭壇。
初めて連れて来てもらったときは教会に気がつきもしなかった。それがこんな風に、諦めていた自由な結婚式をする日が来るなんて。彼と出会た事には本当に感謝しかない。
「僕の花嫁はっけーん」
振り替えれば、チェック柄のスーツ姿の颯が手を振りながら寄ってくる。
「また怒られるよ」
「めちゃくちゃ綺麗なんだもん」
胸から下に広がる白い上等の生地は1度腰で絞られ、長めの裾はふわりと広がる。
腕も、デコルテから胸元までも肌を出すドレスには反対する人が1人いたけど、一目で気に入り絶対にこれがいいと押しきった。
背中の痣は1年残り続けていたのが嘘のように、あれからすっかり消えている。引っ掻いた傷も、行為も無いに等しい。
「ありがとう」
「ね、ね、お姫様抱っこしてもいい?」
「いいよ」
やった!と膝と背中に回った腕で勢いよく抱えあげられても、体格からは想像できないほど安定する。
ネクタイを微妙に緩めている所が彼らしい。
「葵に自慢しよーっと」
「元気してる?本当は今日も…来て欲しかったんだけど」
「いやさすがに無理でしょ。でも、ありがとね。あれから僕付きのマネージャーとして頑張ってるよ」
また兄弟で暮らすようになったらしい。仕事でも家でも一緒って恋人じゃないんだからさ、とか言っているけど嬉しそうな弟思いの兄だ。
「葵がマネージャーって、想像できない」
「僕みたいになるのが目標なんだって」
「それはやめておいた方が…」
「なんだとっ!」
「きゃあっ!」
くるくる回られると目の前の首にしがみつくしかなく、随分伸びた髪が頬を撫でる。癖は活かしたまま後ろでひとつに纏められていた。
落ちる不安はないけど、肩の向こう、入り口からの痛い視線に颯の体の方が心配だ。
「颯、そろそろ…」
「まだまだー!」
「止まれ」
光に透けそうな白いタキシード。短く揃えた髪は後方へ流され、光の加減もあってますます百合らしい新郎だった。
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