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車内でも眺め尽くしてきたはずなのに、視界に入る姿にまだ心臓が煩くなれる。
私達が着ているのは、急ぎの使用予定がない会社管理の衣装だ。社内の更衣室で着替え終えた彼が社長室やら、会議室で髪型を整える私の所にやらウロつくから『やっぱりモデルだったんですね』と女の人にたくさん声をかけられまくっていて唇が尖った。
ふたりで乗り込んだ車内では、お互いの見慣れない様子に、同時に笑いだしてしまった。
『似合ってるけどやっぱり首、出すぎ』
『スタイリストさんも言ってたでしょ?こういうドレスは首が出てた方がいいの!』
『…吸っとくか』
『早く出発して!』
颯は父と陽紫の車で移動してもらった。滅多にないメンバーでのドライブは、予想以上に楽しかったと言っていた。
「拐っていい?」
「拐うな、見るな、触れるな、息を吸うな、吐くな」
「今日見るなっていうなら招待しないでよー」
あれから半年。
私の誕生日と、陽紫に対する『区切り』は同時にやってきた。
『希望通りの結婚式は叶えてあげられない。だから、茅香子さんにも見てもらえそうな場所で小さいのだけ先に挙げない?』
まだ届けも出せていないし、露利の慣習の元で開かれるんだろうと覚悟していた結婚式。首に飛びついて返事をした。
『期限だった日でもあるわけだし、あれにも区切りになるだろ』
耳元で低くなった声。
そっちが本命ではないと信じている。
人数も主役を入れて6人。と、1匹。
りっちゃんの顔もよぎったけれどこのメンバーの中に彼女を1人放り込む事は出来なかった。後日写真を見てもらおう。
降ろしてくれる気配のないタレ目を見つめる。
「うわぉ、熱視線」
「颯。ありがとう」
私達のキューピッド。辛い思いもさせてしまったけれど、これからもずっと兄の様に慕う気持ちは変わらない。秘密の3人の関係も続く。
「ずっとスマホで撮ってるから」
降ろそうかなーどうしようかなーとからかう声を出しながら、合間に私にしか聞こえない囁きをくれた。
「始まったら葵と繋げる。きっと家で正座して待ってるよ」
秘密裏に、人数が1人増えた。
また首にしがみついたけれど、体ごとすぐに引き剥がされてしまった。
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