ふたりの愛し合い方

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父とは普段から距離が近い分、恥ずかしさも照れも何もない。 手には小さな、百合のブーケ。 「茅香子と式してるみてぇ」 「名前で呼ぼうか?」 「拐うぞ」 「みんな拐いたがる!」 「うっせぇ」 長くはないバージンロードの半ば、父にも抱え上げられた。乱暴なくせにまったく落ちる想像をさせてくれない腕。悔しくて首には抱きついてやらない。 スマホの向こうに見える癖毛に手を振る。 レンズの向こうの、金髪にも。 「なんで全員に抱えられるんだよ…」 「彼女が綺麗なのが悪ーい!」 「颯はさすが、よく分かってますね」 祭壇の手前から聞こえた呆れた声に、次々続く。自由な式は、会話も自由だ。 「色男」 ひとり立って待っていた新郎と向かい合う、新婦を抱えた父。 「こいつは茅香子が俺の為に産んだ子だ」 そんなの初めて聞いた。 もう増える事はない、ふたりの時間の尊さ。大切なその中に確かにある自分の存在を一言で知らしめられ、つんとする鼻をすする。 「頼むな」 「もちろんです」 「ほら、よっ!」 「ちょっと!」 「言葉と行動が合ってませんけど…」 布団を投げるように娘を紅大に渡し、ウサギの隣に腰かけた。 この腕の中がやっぱり1番落ち着く。見上げた百合もなんだかんだ言いながら、差し込む祝福の光に見合う表情。 低い階段を2段登り、祭壇の正面に降りた。 待ってくれていた繋馬さんと、微笑み合う。 「約束通り、ふたりでここに来てくれてありがとう」 「はい!」 「幸せに。いつでも来てね」 「はい!」 「紅大くん」 「はい」 「彼女と出会えて良かったね」 「はい」 「茅香子さんの分まで、大切にね」 「はい」 「こんな所でいいかな?」 神父の繋馬さんまで自由な、でも彼からしかもらえない言葉。最後の返事は声が揃った。 「指輪どうする?」 「じゃあ今日は返してもらおう、心臓」 視界の角。ウサギの横の指輪、さらにその横の小指の指輪もきらりと光る。 持ち主は項垂れていた。 ふたりの指輪が薬指にはまるとすぐ、おでこに唇が触れた。 「唇には、ふたりきりの時に」 拍手と冷やかしと呆れた声の中、私だけ見つめて囁いてくれた彼に、とびきりの笑顔で抱きついた。
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