184人が本棚に入れています
本棚に追加
/369ページ
奪い愛、奪われ愛
結婚する相手としかセックスしない、と決めている。
どうして、と聞かれれば言葉に詰まるがとにかく、男の性の象徴が正常に機能し始めた頃から決意は胸にあった。
頬に落ちた髪を耳にかけた彼女の指に光る物が見えたから、既婚者だという事はとうに知れていた。
結婚。自分は一体どんな相手とする事になるのだろう。告白をされる事は沢山ある。けれど相手に何も感じないから付き合えるわけがなく全て断っている。
いつか出会うのだろうか。
欲してやまない、女性に。
興味本意で『どうして結婚したのか』と聞けば『気がついたらハンコ押してた』と、本当かどうか分からない答えに返せる程の人生経験もまだなく詰まっていると、いつの間にか振り返っていたウサギと視線が合う。
『なんだ、あなた童貞なの』
ケンカ売ってんのかこいつ、と思ったが丸っこい目にほだされた。
自分探しを気取りバイクを転がし続け、山奥にあった小さな教会にたどり着いてすぐ、お気に入りの昼寝場所になった。
管理しているというおっさんしかおらず、勝手に長椅子にごろんと横になった所を見つけられた時も『好きに使っていいよ』と言ってくれたから度々訪れた。
そこはいつも無人だった。
けれど、その日目覚めると前の席に女性が座っていた。
後ろからは横顔がなんとか見える程度だったが、耳元で緩くカーブしている髪がウサギの垂れた耳に見えた。肌も服も光を受けてか白すぎて、黒い髪とのコントラストに目が痛む。
『ウサギみてぇ…』
『年上の女性はそんな言葉じゃ喜ばないわよ』
見た目の可愛らしさとは違い、言葉に迷いのない人だった。
『あなたの方がウサギみたいだった』
自分が?こんな見た目の男が?
『目、開いてっか?』
『丸まってて可愛かったわ』
見られていた。別にかまわないが目が泳いだ。
17歳の若さってやつだ。今なら『やっぱりウザギなのはお前の方だ』とかなんだって、返してやれる。
最初のコメントを投稿しよう!