奪い愛、奪われ愛

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想像してなかった。 まさか相手が、既婚者なんて。 「1度離れて、ちゃんと考えなさい」 「何度考えようが変わらない。俺は茅香」 「気持ちは分かったから」 1度沸騰した感情は徐々に温度が下がっていた。握りしめるスカートの裾がいつもより上がって露になる膝と、痣。目は合わせてくれない。 「私の立場と、あなたの誓いの事よ」 「変わらない」 俯いた顔は首まで沈む。引き結ばれた口の中には、どんな言葉が待っているのか。 すんなり受け入れはしないだろう。 「悠一郎にとって大切な誓いでしょう。考えてきて」 「だから、茅香だ」 「…裏にロッジがあるのは知っている?」 「あ?すぐそこの?」 「それは繋馬さんが住んでる方。もっと奥の…着いてきて」 立ち上がるも、時間が止まってしまったかのように動かない。気まずそうに歪む顔を見ているとこっちの眉まで歪んでしまう。 「どうした」 「いえ。ちょっと…っ、大丈夫」 倒れ込むように椅子に戻ってきた体を受け止めようとしたが、当然払われた。 「もしかして足が悪いのか」 「時々よ。タイミングが悪かっただけ」 「生まれつき?」 答えはない。 「とにかく、回り込んで進めばあるのよ。そこには出来れば来ないでほしいわね」 「ああ?」 「日付が変わる時間にバイクの音なんか、煩くて迷惑よ。目立つところに停められても困るし」 素直に言ってはいけない関係を表した、あやうい匂いがした。 考えて、それでも揺るがないのなら。 教会から離れ、公園のベンチで深夜まで考えるも、やはり決意は変わらなかった。
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