奪い愛、奪われ愛

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何も教えられていない手は曲線を撫でつくす。痣に侵食されない清廉さ。ふたりの関係とはかけ離れた清らかさに、どこもかしこもクセになる。 「やべ」 「もう出そう?」 「バカ。違ぇ」 「女の子なんてこうすれば勝手にベッドに転がるから」 体重を肩に乗せられ、抵抗する気もなくベッドに沈んだ。 「まだ知らないくせにちゃんと男の子ね」 熱い口内に猛りを含まれた時の快感は、一生忘れられそうにない。想像していたよりずっと制御出来なかった欲はすぐに吸い上げられ、震えた。 「10代の性欲なめんな」 「本当。驚いたわ」 赤い舌が口許の白い欲を拭ったさまにひくつく、萎まない根。頼りない膜が被さる。 「今ならまだ間に合う」 色めきたった声でもない。跨がられ初めてを奪われる、その直前。影が濃くなった顔を見上げる。 「奪われるのよ?」 「調子のんな…俺が、奪うんだよ!」 教わらなくても簡単。昂りの先に待つ、悲しい快感が詰まった空洞の柔らかさに、荒くなる呼吸。 腰が落ちてくるのなんか待ってやらねぇ。 奪うために、突き上げた。 力の入った足が軋みを鳴らす。 全てを飲み込んだウサギは上向きがちに、鼻からため息をひとつ。空気を飲み込み上下した急所を噛みたくなったが、腰以外動かせない。埋まった中が必死にすがりついてきすぎていた。 何が間に合うだ。全然手遅れだ、お互い。 「っ、次の時は初めてって、言うのよ?どうして慣れてるのって聞かれたら『キミがこうさせるんだ』とでも、言っておきなさい」 奪われ、奪った。 悲しくて最高だった。 寝具に散らばった黒髪。茅香の輪郭ならどこでも、見下ろすだけで息が上がるのはどういう事だ。奪い合う息は、下げかたを教えてくれない。 「やべ」 「また出そう?」 「好きだ」 「きっと喜ぶわ。愛してるも忘れないで」 「いつ言やいい?」 「中に入れて、見つめ合いながらよ」 「分かった」 「朝にはなにもなくなってる。奪われた事も、奪った事も」 瞳に映る月が、水に浮かんで揺れた。 簡単に握り潰せそうな胸の触れ方も先導される。 息を飲む音も静かな部屋ではよく響いた。 猛りに直にくらう快感だけだと思っていた行為は、こんなにも全身が喜ぶものだったのか。 「舌でも、舐めて。手も休んじゃ駄目っ、よ…ぁ、」 決して大きくない、堪えた矯声がエンジンをふかしてくれる。耳の後ろを擽って与えられる、毛穴が波打つ感覚に、それだけで果ててしまいそうだった。 「吸いながら音を立てて…離して」 与えているはずなのに、与える方も気持ちがいい。悦びに震え、待ち構える先端をそのまま含み直す。 「こら。ふたつあるんだから、反対も」
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