奪い愛、奪われ愛

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触れたものが何もかも冷たい、夜の騒ぎが嘘のような朝。 枕元の1枚の紙に、指がたどり着いた。 『最後のお願い。月が欲しい。用意できるまでここには来ないで』 青白い光を思い返しながら握りつぶすと同時に、エンジン音を耳が拾う。 聞こえた瞬間、もつれるように下だけはいた。シャツは着る間も惜しく上半身は素肌のまま、乱暴な足音が進む。 湿度の高い山の朝だ。湿った土に足を取られつつ駆けたが、とっくに車も彼女も消えていた。 「クソッ!」 間に合った所で、どうするつもりだったのか。 ぬかるんだ地面に残る真新しいタイヤ痕を蹴りあげて消しても、夜の跡はなにも消えない。
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