奪い愛、奪われ愛

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何もこんなにそっくりじゃなくてもと、何度思ったことか。 「抱っこー」 「はいよ」 自分の容姿と小さい子、というのは親子の規格から外れているらしい。様子を伺う視線をよく感じた。 「失礼ですが保護者では…ないですよね?」 「父親です」 「悠一郎です!」 改めて親子の証明をするというのは難しいと、警察に声をかけられたところで息を吐いた。娘が名前で呼ぶことも、怪しまれている最中では疑いに拍車をかける。 なぜ困っている母の所へ早く行かないのかと、首を傾げ続ける娘。 小さいなりに、自分を抱えている男が父だという証明になりそうな思い出を、さまざま考えているは分かっていた。 「おまわりさん」 「なぁに?お母さんはどこ?お父さんは?」 「だから父親は俺だって」 「悠一郎はこうみえて、茅香がいないと生きていけないんだよ!」 「あなた達なにしてるの?」 余計な事を吹き込んだ張本人が現れ、解放された。母と娘の証明は簡単だった。 「いい加減、俺か木田がいる時だけにしろよ」 「しろよー」 出会った頃より、動きづらくなる頻度が多い気はしていた。思い出す、憎たらしい運転席の男。 それでもひとりで散歩に出かけては帰りが遅くなり、迎えに出向いた。 「ずっと待っているんだけど、私はいつ抱えてくれるの?」 悪びれもしない上に睨まれた。 しょうがない。 同じ顔したふたりを抱えて、まとめて帰った。 「悠一郎」 「悠一郎!」 長たらしい名前。両側から楽しそうに呼ばれながら、見た目に似合わない感情を持って歩き始めた。 「はいよ。なんだよ」 「なんにもなーい」 「なんにもなぁい!」 また同じように言われるから、笑わずにはいられない。 茅香といれば、怪しまれる事もない。家族を抱えて帰路につく父親を見守る、優しい視線しか感じない。
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