奪い愛、奪われ愛

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父と母から、男と女に変わる深夜。 「っ…あ、ぅ…んぁ…」 素肌を滑って膝を抱え上げ、何もつけていない先で惚けた入り口をくすぐった。 初めての時より聞かせてくれるようになった、エンジンをふかしてくれる声がひっそり耳元で響く。 「もうひとり欲しい。男」 「悠一郎に、そっくりな子?」 「そっくりじゃない方がいい」 「そう」 冷静な返事に、そのまま突っ込んでやろうとアクセルを回す手に力を入れた。 「その子か、私か。どっちにする?」 急ブレーキ。 止まらざるを得なかった。呼吸まで止まった。からかいではないことは重ねた年月、言い方ですぐ分かる。 「どういう事だ」 「年齢もあるけど…骨が」 痣はとっくに消えていた。茅香の性格だからこそなのか後遺症は内面にはなく、足ぐらい。ところが本人しか知らないものがまだあった。 「骨盤と足の付け根が歪んでいるから、止められてるの。子どもも私も危ないって」 「言えよ!」 「多香子の時に言われたのよ?言ったら、諦めたでしょう」 「そりゃ、お前…!」 「悠一郎の望みを…私も叶えてあげたかったの」 妊娠中も出産の時も、頑なに病院には来るなと言われていた。 気持ちが追い付かずベッドに沈み、茅香を腹に乗せた。 「別にセックスは問題ないのよ?」 「言えよ」 「ごめん」 胸板にしなだれ寄り添われても、指がくすぐるように撫でてきても力は入らず。 心音を確かめるようにぴたりと張り付かれると、彼女の言葉は耳にも体にも直接的響いてくる。 「(かや)にもね?花言葉があるんだって。教会でそんな本があったの」 続いた言葉は、らしくなく震えていた。 「子どもの守護神。多香子にとって私、そうなれるかしら」 「どうだろうな」 「花言葉はもうひとつ…あ、それは悠一郎が泣いちゃうから自分で調べて?私早死にするから」 「その妙な自信はどこから来るんだよ。死ぬな」 そんな風に『(かや)』について話した事もぶっ飛ぶ出来事はすぐ起こった。 根拠のない自信は、現実になる。
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