奪い愛、奪われ愛

18/19
前へ
/369ページ
次へ
彼女の不在を確認し合う呼び掛けは、未だに続いている。確認というより、習慣になってしまった。 『茅香』 『茅香じゃない』 『(かや)』の話をしたことなんてその日まですっかり忘れていた。 まさか娘がこの教会で、正式で無いとはいえ式を挙げる事になるとは、どんな時も想像していなかった。 繋馬さんとは連絡は年に1度程取っていたが、茅香が亡くなった日に混乱したまま会って以来の再会だった。 自由になった茅香も、同じ頻度で連絡を取っていたから引き継いだのだ。 『繋馬さんがいなかったら、教会で凍死してたわよ』 ロッジを提供し、一緒に食事をしたり世話をしてくれていたらしい。あまりやりすぎると憎い旦那がどう出てくるか分からないから、極々たまに。 教会の方は簡素な式の直前、何やら騒がしいが、茅の花言葉を探して本を手に取る。 こんなことでもなければ調べたりしないジャンル。つまらなく感じながらページを進める。 『(かや)』 載っていた花言葉は 『子どもの守護神』 あと、もうひとつ。 『みんなで一緒にいたい』 ちゃんと幸せだったんだろうか。 奪い合って、奪われ合って。 そう聞いたらまたきっと『見た目に似合わない』と、笑わずいてくれるとは思うけど。 ずっと答えを、聞きたかった。 式が終わっても指定席から離れられず思い返していると、近寄ってきた娘が、ひとつも笑わずにウサギのメッセージを伝えてくれた。 『この子が来てから、幸せしかなかった』 この子。 茅香から本音を引きずり出したウサギと、俺の為にあいつが産んだ娘。 未だに茅香しか望まない、目の前に誰もいない孤独な人生の道。 『奪ってくれて、奪われてくれてありがとう』 『悠一郎』 目の前の娘が呼んだだけなのに、左右から聞こえた気がした。 なんだ。 前でも後ろでも、ずっと先でもなくて…横にずっと居たのか。 それならバイクなんか乗り捨てて、みんなで一緒に(・・・・・・・)歩いて行くか。 足の動きが鈍くなればまた、抱えて帰れる。 叶わなかった望みも、もうすぐ実現するみたいだよ。 自分にそっくりでなく、しかし似た経験を積むことになったとんでもない息子を、娘が連れてきやがったから。 一緒に歩いていくのはふたりになりそうだ。そっちの方が、幸せか。 『痣を作ったら悠一郎が来てくれるかと思って』 とか言って、勝手に横から拐われてんなよ? 浮気なんかしねぇからさ、その内また、パンとコーヒーを奪い合えるまで。 しっかり抱きついて、離れんな。
/369ページ

最初のコメントを投稿しよう!

185人が本棚に入れています
本棚に追加