もうすぐ、

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彼女の大切な物が集まる棚には年に1度、同じ時期に紫陽花の小さなブーケが咲いてしまう。 濃ゆい青の輝きに生花の瑞々しさが合わさると、ディナーを楽しんだ店の雰囲気そのままのようで癪だ。 手元の紫陽花が、視界に入っているだけでますます癪だ。体を起こし、言葉もなく受け取って背中に隠した。 「このサイズじゃなかった頃が懐かしい」 「手足の生えた花束が部屋に入ってきて驚いた」 「すぐ抗議の電話してたもんね?面白がられてるんだよ」 「だから似たような女性が図書館に送り込まれてくるのか」 「本当にされてたんだ…」 面白がられるくらいの理由ならいい。けれど長期に渡り定期的に、彼女と雰囲気が似たような同年代の女性から、勤務中に誘いを受ける。 送り込んできているのかと聞いたこともあるが、とぼけられた。兄妹揃ってとぼけやがる。 膝の間に入ってきた体を抱き締めたいが、煙の匂いに邪魔をされ、親指の輪だけ撫でた。 「誘惑が上手いんだ」 「のっちゃうの?」 「のるわけない」 世の中には、浮気したら相手を刺す人だっている。あいつのせいで痛い思いをするなんて絶対したくない。 何よりまず、なびくことなんてない。
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