もうすぐ、

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「煙草の匂いが濃い」 「席がね、1番夜景が見渡せるカップルシートで」 「浮気相手の方なら刺せるかも」 「浮気?刺す?」 「肩でも抱かれた?」 「ううん、ここに頭が乗ってきて」 自分の頭専用なはずの肩を示す、手。 思わず掴み、力が入る。 朝、髪を撫で付けながら、服装まで口出しするのはさすがに堪えた。 店の雰囲気に合わせた、ノースリーブの落ち着いたワンピースに、淡く透けるカーディガン。着飾っている、には一歩足りない程度の華美さ。 カーディガン、脱がなかっただろうな。 透けているから頼りないが、ないよりましな防具の行方と思い浮かぶ眼鏡が、こもった力を弱らせない。 「ごめんなさい。からかっただけです」 「たちが悪い」 「でもそんな席があったのは本当だよ?びっくりした。陽紫とはちゃんと向かいに座って、触れられることもなく帰ってきました」 「ならいい。早く風呂」 顎で催促した顔は、冷えた両手に挟まれた。もう一度謝られながら、償いのように唇が落ちてくる。 煙草の臭いがあちこち散っておだやかじゃないのに、許してしまえる自分が悔しい。
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