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「1回、だ、け」
苦しげに果てる瞬間も瞳はそれなかった。
何度見上げても心臓騒げる色めいた顔は近すぎて、焦点が合わず一瞬霞がかかる。
普段の冷静に見える態度と真逆な、熱い時間。
短い時間でじっとりと湿ってしまった素肌が、すれ合う。
それなのに不快どころか、生み出した熱量に充足まで感じてしまった。
『何回したい?』とのいつもの問いに『1回だけ』とお決まりの返事をすれば、短い1回を前菜のように与えられるのが、特にいじわるをしたいときの彼のパターンだ。
「これでおしまいでいいの?本当に?」
中を埋めつくしたままの彼を感じながら、弱い耳を鼻先でくすぐられてしまえば、短いインターバルにほんの少しだけ冷えた体がすぐに熱さを思い出してしまう。
『足りない』と食いぎみに返事をしたくなってしまうのは、降り注ぐ百合の色香にあてられ慣れたからか。
「っ、あ!…まだっ…やだぁ…!」
動きかけた逞しい腰にまわしてしまった足。
離れるふりだと、分かっているのに。
一緒に暮らしているし、あんなに寂しかった年末年始ももう来ない。それでも繋がりへの執着は治まっていない。
「どーっち…?」
絡めていた指と、腰を逃がすまいとする足に力を入れると、それ以上の力を全身に返してくれる。
愛しげに微笑まれてしまえば、執着し続けるのも…いいのかな、なんて。
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