番外編 1

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最初から足りなくなるのなんて分かっているのだから、『1回』と言わず素直に言えばいい。 だけどすんなりと『じゃあ3回!』などとハッキリした答えを叶えるより、口先だけの『1回』を追い詰め、陥落させる方が盛りあがる彼だ。 無意識に、盛りあげようとしてしまう。 そうやって追い詰められるのを求めてしまう自分のいやらしさは、毎度のすさまじい愛情表現によって育てられてしまった。 「いじわる」 「いじわるされたがる婚約者なので」 「相手がいじわるしたがりだから、合わせて、あげてるの…っ」 「優しいんだな。ますます好きになった」 「…いじわるでズルいとこも…、好き」 以前興味本意で、覚えている中で1番多かった回数に1を足してを伝えたところ、実現されてしまった。 冗談だからと途中で何度も知らせたのに。都合よく栓のできる耳をお持ちだった。 手離しかける意識を強引に引き戻され続け、気を失うように眠りについた次の日。 『希望を叶えてあげられて良かった』と爽やかに朝の挨拶をくれたけれど、腰に、上半身までも自由がきかなくなっていたベッドの上。 同じ爽やかさでは返事ができなかった。 自分が招いた結果とはいえ、ひとり暮らしをしていた家にしばらく帰ってやろうかとも考えた。だけど正式ではない結婚式のあと、すぐ引き払ってしまっていた。 常にご馳走を求める空腹の体の下、10に近い回数を無防備に口に出すものじゃない。 教訓は見えない紙に書いて、天井にひとつのシワなく大切に貼りつけてある。
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