番外編 1

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仕事については応援してくれているし、出来ることがあれば協力もしてくれる。ただ、本音ではやめて欲しい気持ちがあるのも聞いている。 なにをきっかけに、本音が勝って行動にうつされてしまうのか分からない。 「はっ…ぁ!痕、つけるのも…だめ、だからね」 「こんなところが見える服、着るの?」 痕がつく痛みを連想させるように何度も摘ままれる内股に、紅色は咲いていない。 久しぶりの撮影の仕事が決まってから、厳しく伝えてきた甲斐があった。前日に台無しにされるわけにはいかない。 もっと言えば、本当は肌を重ねるつもりじゃなかった。 朝慌てることのないように、準備を終えたカバンをソファに待機させた、そのときから。 ローテーブルには、積み上げられた『露利家に嫁ぐとはこういうこと』な内容が盛りだくさんの資料。目を背けたくなる高さがそびえ立った。 今日から勉強始めようかと誘われたけれど、翌日のために早めに眠るからと丁寧に断り、ひとりでベッドに入ったあとすぐだった。 寄り添ってきたぬくもり。 いつもより早い時間だからまだ起きていてもいいのにと、のんきに考えていた無防備なご馳走のパジャマは、一呼吸の間にシーツと同化する。 特にいじわるしたい日のパターンの中でも、上位に立てる荒れた始まりだった。決して乱暴なわけではなく…必死なような。 着直そうとする奮闘は、むなしい抵抗に終わる。
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