番外編 1

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目も開かないまま伸ばした手は、スヌーズにたどり着く前に胸元に引き戻された。 触れていないのに消えた振動。 寄り添い慣れた肩口は、深夜は湿っていたはずなのに肌触りがよくてすり寄ってしまう。 ベッド限定ディナーの熱量はとっくに消火されていた。 「おやすみ」 深い呼吸に合わせて、いつもより狭まった腕の中。安堵と幸せといい匂いしかなく、同じ挨拶を返したところで再び始まったスヌーズなんか…もう、どうでもいい。 「違った!起きないと!おはよう、だよ!」 「作戦失敗」 心地よすぎる腕は、拍子抜けするほどすんなりと抜け出せた。もっと引きとめてくると思っていたのに。 理由はすぐに分かった。 布団を胸元に引き寄せながら、滑り落とされたパジャマに手を伸ばす。 ところが、ついでのように跳ねのけられていた自分用の枕しかない。今までされたことのない扱いに、きっと夜通し泣いていただろう。 …ほんっと、用意周到。 ひとつの上掛けの中。1度は背を向けた、寝ぼけた様子も爽やかな様子もない、ただこちらの反応をうかがっている視線に再び向き合う。 まだどちらもベッドから動き出していない1日のはじまり。 開けられていないカーテンからはうっすらとしか陽が入らず薄暗い。だけど。 「ちょっとだけ目を閉じていてくれる?」 「なんで?」 「シャワー使おうかなって」 「そう。いってらっしゃい」 「パジャマがなくなってるから行けない」 「そのまま行けば?もう知り尽くしてる」 「その感じがいたたまれないんだけど…」 「だからといって飽きたりしないから安心して。一生」 「飽きてない視線が恥ずかしいから目を閉じてって言ってるの!」 「恥じらいバンザイ」 「もういいです!」 薄い布団をひったくり、マントのように羽織って浴室に駆けた。
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