番外編 1

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「誠心誠意、お仕事に励んでるだけだよ?恋人なんだから近くて当たり前でしょ」 揚げつくされた二足歩行。危険なものはすぐにスタッフが片付けてくれた。 同じほどの背の高さで腕が沿い、本当の恋人と違う手が触れる。 「普段はだめだからね?」 「やっぱり仕事ならいいんだ」 「そりゃあ仕事ですから?誠心誠意励むよ」 「きっと休業したそのまま…被写体になるのは辞めちゃうんだろうなって思ってた。続けてくれたこともめちゃくちゃ嬉しい」 「悩んだけど…頑張ってみようかなって」 自分であって自分でないような不快感を、写真で見る自らの姿に対して抱いていた。 塞ぎこんでいた時期から返ってこられた頃からだろうか。 もしかしたら一瞬を切り取られた写真の中の世界にいるのは、自分にそっくりな容姿の母親なのではないだろうかと、思ったのだ。 ただの妄想でも、もう会えない母親を感じられる。体ひとつで勝負する世界で頑張ってみようと思い立った。 紙媒体に限らず、これからはどんな仕事でも受けていくつもりだ。 理由はもうひとつ。 葵とまた一緒に仕事ができる日を、待っていたいから。 「あ、ちょっと待って?美味しい忘れものがついてる」
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