番外編 1

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「あ、そのままふたり、ちょっと止まって。見つめあってて」 「はーい」 「はぁい」 甘い雰囲気になりきれない理由は、レンズとカメラマンからの視線を感じるから。他のスタッフの気配も離れたところにいくつもある。 いかにも仕事的な声がせっかく現実に引き戻してくれたというのに、ショートパンツの裾ギリギリのラインの内股にするりと触れてきたいたずらな指に、甘さを感じて息を飲んでしまった。 表情にも出ていたのか。 じっと見つめてきていた顔が苦しそうに歪む。 「ちょっとヤバい」 「え、な、なに?」 「盛りあがりすぎてきた。気持ちと、あと」 「…それ以上言わないでね?」 今まで経験のないほどに体が近く、場所もベッド。近い距離で構えるカメラマンを頭数に入れるというのなら…颯好みの3人の世界。さすがに続きの場所は察した。 「切り替えるからちょっと待ってて」 長らく閉じた瞳。 何度もゆったりとした深呼吸のあと開かれると、鋭い光は跡形もなくなっていた。 「しつこい相手をすぐに諦めさせる方法、なにかないかなぁ?」 「なになに?しつこいの?」 「なかなか離れてくれないときもあるから」 ニマニマ、面白がってくるようにタレた目。 見知らぬ男性に声をかけられたときの撃退方法を聞いたのに、なぜそんなに楽しそうにされるのか。 空手も心得があるから、これ以上ない人選だと思ったのに。 「急所をつく」 「蹴りあげるってこと?それが難易度高くて困ってるの」 「喉仏も急所だよ?」 「そうなの?」 「喉仏キレイだね、とか言って胸元に潜り込んでさ、思い切り押すか突いてやればいい。キミの力でも十分、ひとたまりもないよ」 「蹴りあげるのと難しさは変わらないかも」 「じゃあ鳩尾。あと顎。それか、こめかみはどう?マッサージする体で近づいて…がつん!と」 「やっぱりどれも初対面だと難しいような…」 「紅大にするんじゃないの?」 「だとしたらどうして急所をつかせようとしてるの?」 「いつもこうやって見下ろしてるのかと思うと羨ましくてさ」 鼻が触れあう。プライベートでは触れあうのはやめて欲しいというお願いを守ってくれている。 3人の秘密の時間と、今日から再開する仕事以外は。 「今朝は颯が羨ましがられてた」 「妬まれてた、でしょ。あんな式までしといてさ。あいつはどんどん小さくなっていくねぇ」 「それは」
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