番外編 1

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1年もの間。 仕事以外はずっと側にいることが当たり前で、頼ってばかりで近くにいすぎたから。 結婚を承諾してもなお、後遺症とも言える彼の心配は要所で顔を覗かせてくる。 蹴りあげる以外の撃退方法を知って実践できれば、多少なりとも安心させてあげられるかと思ったのに。 「困るときもあるけど、いいの」 「身長も小さくなればいいんだ」 「背が低いの、嫌?颯らしいと思うんだけどな」 「良かったことももちろんあるよ」 「どんなこと?」 「キミに会えた」 「背が高くても会えたでしょ?」 「高かったら会えてないときに会えた」 なんと返事をしていいか悩み、なにも返すことはできなかった。 「あの、好きな人とは、どう?」 「見下ろしてる」 「設定の話じゃなくて」 「別な男と結婚するんだ」 「…ごめん」 「今どき結婚が1回で済まない人も多いしさ。別れることがあればもらうよ。他の男に託すのなんて…1回だけ。彼だから、任せたんだ」 普段がつかみどころのない雰囲気だからか。 まるで本当の恋人に向けるような眼差しとのギャップが刺さる。 頬を撫でられ、見つめ合う間やまないシャッター音がなければ、本当に勘違いしてしまいそうなほどだ。 「相手もいい奴だし、ふたりとも幸せそうだからいいんだ。でも…一応練習させて」 練習は、耳元にやってきた。 「僕と世界一幸せな3人家族、作らない?子宝二足歩行(コウノトリ)をすぐに呼び寄せて」 「颯らしいプロポーズで、とってもいいね」 もしも。南国の日差しみたいな視線をくれる颯と自分が、設定などではなく恋人だったら。 ふたりで砂にまみれながら楽しむ、溺れる心配の要らない波打ち際。疲れたらトロピカルなジュースをわけあって、夕焼けの砂浜に並ぶ足跡。 楽しくてしょうがないだろうし、きっと幸せ。 でも『3人で大人のディナーを楽しみたい』願望を、叶えてあげられない。 私にとっての1番は…2人で、食べさせ合うことだから。
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