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『異常』という単語の鋭さを使い、自らを攻撃していた頃の彼を思いだす。
原因の、その癖。
いつかまるごと受け入れてくれる人とは、3人でするのかな。…だとしたら3人目は誰なんだろう。
プロポーズの言葉にも、ちゃんとその数字が絡んでいることに瞳を閉じ、彼の将来を想う。
絶対、絶対世界一幸せな家族が作れるよ。
その癖と一緒に、颯なら。
どうか。お相手が、砂浜の向こうから駆け足でやってきてくれますように。
「ありがとう。キミにそう言ってもらえて…嬉しいよ」
閉じられた瞳を抱えた表情は鼻先まで戻ってくる。嬉しいだけでは、なさそうだったけど。
それ以降ベッドでの撮影中は、引き続くカメラのシャター音しかしなくなった。
休憩の声がかかると同時、引き起こされ向かい合って座るベッドの上。
腕を力強く引かれたはずなのに、痛いところなんかひとつもなかった。片手が、当然のように背中を支えてくれたから。
「追加したい『幸せ』なんだけどさ。僕の恋人っていう仕事上の名目。貰ってくれない?」
「貰っていいの?」
「公からは本当の彼女みたく思われてもかまわないよ、僕はね。これからも恋人役の話が来たら引き受けて欲しい」
「仕事ならどんなものでも精神誠意勤めるよ。颯の望む名目だって、もちろん引き受ける。ただ…前日に紅大をからかうのはやめてね?」
「いろいろと被害を受けるのはキミだからかな?」
覗きこんできたからかうような表情には、全て悟られているようだった。
「紅大って…キミと同い年ぐらいの女性の知り合い、いる?」
錯覚激しい設定上の関係は、今日はここまで。
私服に着替えようと床に足を降ろしてすぐ『あのさー聞こうと思ってたことがあるんだけどー』と、わざとらしいような声に振り向いた。
今までにされたことのない質問だった。
からかってきている感じはしない。
「知ってる限りではいないけど…あ、お兄さんの奥さんとか?私よりも年下だけど年齢は近いよ?」
「先週会う予定してた?」
「…聞いてない」
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