番外編 1

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卒業式の1週間前。 在学中最後の秘密の授業で、スピンは手首にやってくる。 私物と言っていたその本はかなり古そうな見た目で、何年も本棚で眠っていたものだと言っていた。 ハードカバーを開くたびに、軋みのような音をたてる本だった。突然頻繁に使われ始めたことで限界を迎えたらしい。 秘密の授業終わり、開いたページに挟み込もうとした紐は、軽い力だったにも関わらず、根元から音もなく千切れてしまった。 「あ?!すみません!」 「古い本だから。かまわないよ」 差し出された手のひらは、紐を捨てるためだろう。 なにかひとつでも怜さんのものを持っていたいと思うほどには…憧れは大きくなっていた。 「もらっていいですか?」 「いいけど、そんなのどうするの」 「…記念に持っておこうかと」 「ならこうしておこう」 栞からただの紐に変わったスピンは、利き手で持っていた。 気軽に伸びてきた手に1度さらわれた紐は、出していた手首に固結びされて返ってくることになった。 「わあ、ありがとうございます」 「卒業したらさ」 用意されていたメモがデスクを滑って近づいてくる。 そこには、卒業式の1週間後の日付と時間。 加えて好奇心をくすぐる、部屋番号つきの住所。 「おいで」 「ここになにかあるんですか?」 「シアワセ。授業の続き…するよ」 制服の細いリボンに触れられながら言われた当時は分からなかった。もちろん、今なら気がつく。 そのときの『授業』が、現代語訳のことではなく…リボンをほどく意味だということに。
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